その⑤:ヒントは『二千年先の未来』

「これ……何号まで、続くんですか……?」

「あらまあ、さしもの吸血鬼ちゃんも、お疲れみたいね」


 少女が口元に手を当てて、さとく、あざとく、人間らしく振る舞う。


「安心して、技術的な進化は伍号ごごうで終わりよ。でも、肆号よんごう相手にそこまでへろへろになってたら、ちょっと『心配』ね。わたしの『心』は、造り物だけれど」

「やはり、あなたは……」


「ふふっ、わたしの正体の推理は、これを見てる探偵ちゃんに任せて。『目の前の伍号』に集中してちょうだい。肆号は対城塞破壊兵器たいじょうさいはかいへいきだったのだけど、弱点があったのよ」

「それは、発射まで時間がかかるという?」


「それもあるけれど、一番の課題は威力が高過ぎることって、わ。

 この方向に技術を発達させていったら、世界中の自然なんて、あっという間に焼け野原になってしまう。博士は『歌と自然を愛していた』もの」


 花畑で踊るように、開花時期の異なる植物が咲き乱れる庭園を示していく。戦闘の余波を受けて焼けたり、千切れていた植物が、『元どおりに再生』する。



「いったい、なんですか、このは――生命ではない」



「博士は『ナノマシン』って呼んでいたわ。とーっても小さな機械の集まりで、組み替えて、どんな形や機能にもなれる。彼女の人生の集大成しゅうたいせいよ」


「そんな……そこまで小さな歯車を作れるとは思えませんが」


「歯車? 面白い表現ね。くっ付き合うという意味では、ある意味、無数の歯車の集合とも言えるのかしらね」

 説明を受けたヒリングは、却って疑問が増えてしまった。


「ところで、困った博士は考えました、考えた末に洗練させたの――『人だけを殺せば、戦争が早く終わる』って」


 チリリッ……微細な熱を感知したヒリングが、反射だけでその場から飛び退く。


 ついさっきまで立っていた地面が一瞬で、蒸発していた。

 威力は前の型より低い――が、殺傷力さっしょうりょくという点においては、むしろ高まっている。


「すごいわ、『光の速さ』を避けるなんて」


「これは光魔術……〈純精霊〉の扱う光魔法に近い? ですが詠唱は……魔力はまるで感じなかった。

 いえ、優先して考えるべきは――から攻撃された?」


 枯れないはずの花々が、一斉に散った。

 品種もばらばらな花弁は科学的な青い光となって集まり、次第にひとつの『人の形』をかたどっていく。


 そう、伍号は形を変えて、ヒリングの視界にずっと映っていたのだ。


「わたし、何度も言ったのよ。もう人型にする意味はないって。で、人は殺せるわ。

 吸血鬼もそう、サイズを巨大化させれば、きっと神様だって殺せる」


 流線形のゴーレムが飛行音も立てずに、片膝を曲げて浮かんでいた。

 それは少女の命令に従い、無言で指先をヒリングに向ける。

 たったそれだけの所作で、ほんの刹那せつなの溜めの後に、避け損ねた白い長髪の末端が焼けた。


「っ――私の体は、太陽にも耐性がある!」


「それは魔術的な話でしょう? 

 これはレーザービーム、『光の速さの物理攻撃』よ。弓矢の延長線にある技術って、考えてみてちょうだい」

「これのどこが、弓矢なんですか……?」

 ヒリングはおろか、見ていたアンでさえ、とうに理解の範疇はんちゅうを超えている。


「ごめんなさい、もう考えないほうがいいわね。少しでも足を止めたら、あっという間に焼け死んでしまうもの。

 あなた、たしか千年早いって言っていたけど、これからあなたに襲いかかるのは――『』よ」


 ◆


「やばいやばいやばいよ! いくらヒリングでも、あれには勝てない!」

 モニターの前に立って戦いを眺めていたアンにも兵器の構造は想像すら及ばなかったが、彼我ひがの戦力差だけは伝わっていた。


「僕がなんとか……でも、ここから出ないと始まらない」

 脱出も諦めて立っていたのは、既に部屋中を調べ尽くした後だったからである。


 呼吸ができる以上、完璧な密室ではない。

 空気を出し入れする孔があるはずだが、その通気口もしっかり、人が通れないよう鉄の柵で塞がれていた。


「――エクスカ、君もどこかで聞いているんだろ! 頼む、扉を開けてくれ!」


 扉をばんばんと叩く彼女の悲痛な叫びが、届いたのか。


 いきなり、鉄の扉が真横にスライドし、支えを失った体が廊下に放り出される。

 転びそうになった体を、金属の長い腕が支えてくれた。


「な、なに……この、なに?」


 本体である部位は丸っこい球状で、先端に車輪の付いた多足と、クラーケンの触腕のような手が付いた謎の機械。


「君が助けてくれたの? 見たことない形状だけど、君も【メモ:エクスカの造った小型のゴーレム】で、合ってる?」


 ピピッ、と鳴き声とも駆動音とも判別しがたい音が返ってくる。

 肯定の意思表示ではあるようだ。


 小型ゴーレムは廊下を少し進んだところで、振り返り、アンに手招きしている。


「こっちに、ついて来いって……?」


 初めて出逢ったはずのそれを、彼女はなぜか――と感じたという。


 ◆


「探偵ちゃんが焦り始めた……やっと、やっとわたしの願いが叶うの! だからもっと、もっとあなたの悲鳴を聞かせて!」


「あれが本当にゴーレムなら、〈コア〉を砕けば破壊できるはずです!」


 ヒリングが咄嗟とっさに、持っていた武器を放り投げる。

 光の線とのあいだに割り込ませた血液の塊が、急激に蒸発し、簡易的な煙幕となって視界を遮った。


「あらまあ、直線的であること、レーザービームの弱点のひとつよ。気づいたの? それとも、たまたまかしら?」


「どちらでも同じです……!」

 残りの小瓶から、槌を再形成し、ゴーレムの反応速度よりも速く振る。音が遅れてくる速度の一撃は凄まじく、全身の装甲をくまなく破壊する。


「まあ大変、位置を動かし続けていた〈コア〉が丸出しだわ」

「これしきが『』ですか? 私のほうが――二万年早かったみたいですね」


 剥き出しになった〈コア〉を掴み、パキン、とそのまま握り潰した。


「吸血鬼さん、意外と負けず嫌いなのね」

「はて? あなたの負けです。お嬢様を解放してください」


「もう解放はしてるけど……もっと追い詰めないと、あの子は『それ』をしないわ」

 少女がその場で、作業着を脱ぎ捨てた。

 伍号の破片が体を覆い、肌に密着した極薄の装甲板となる。


「やはり、あなたこそが……『陸号ろくごう』ですね」


「どうかしら? わたしが『自らを改造したエクスカかもしれない』わよ」

「っ……まだ、続けるおつもりですか」

 交わした〈契約〉が脳裏によぎったのか、ヒリングがぴくりと反応する。


「簡単に死んでくれないでね。わたし、こう見えて――結構強いもの」


「……あなたも、負けず嫌いな方ですね」

 少女は、二万年早いと言われたのを、気にしているらしい。

 その高貴なる吸血鬼は絶体絶命の窮地で、どこか似た者同士な相手に、かすかに笑ってみせるのだった。


【ここまでの調査レポート】

 ・僕を助けてくれたのは、小型のゴーレムだった?

 ・敵じゃないことは確かだ。不思議と懐かしい気分になる。

 ・君が呼んでるんだね、エクスカ。

 ・もう終わらせよう。この戦いはあまりにも、から。


(第4問その⑤・了、つづく)

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