第7話 狩り
いくつも季節が進み、3度水が温(ぬる)む。
純が国立大学の医学部に入学してから2年過ぎた。
図書館のわきに、地噴水がコンコンと湧き出ている流水公園がある。
川の流れにそって遊歩道がつづいている。
川べりの石垣に一匹の蛇がひっそりとかくれていた。
まだ冬眠から目覚めきっていない。
空腹だったのか、顔をのぞかせ、舌先をシュッと出した。
その瞬間に、近くの家の屋根の上から黒い影を落とし、
カラスが大きな羽を広げてバサーッと飛びおりてきた。
蛇の気配を目ざとくみつけたカラスは、石垣にとりつくと、
そのすきまにくちばしを突っこんだ。
梅花(ばいか)藻(も)が流れに揺れている澄んだ水面をただぼんやりながめていた純の目の前に、蛇を引きずり出した。まだ小さな幼い蛇だった。
クワっと大きく口を開けて体をくねらせ、必死で助けを求めている。
鳴き声はきこえなかった。
純はパーセルマウス(蛇語使い)ではない。
だから蛇の悲鳴は届かなかった。
カラスは蛇の首をくわえ、なんども頭をバシッ、バシッと地面にたたきつけた。
やがて動けなくなった蛇をゆっくりと頭から飲みこんでいった。
純が図書館から歩いて帰るとちゅうの、ほんの数分のできごとだった。
ゴミあさりなどのあさましいひきょうな食餌(じ)ではない、
本物の野生の狩りをはじめ(狩り)からおわり(蛇の死)までみてしまった。
純は蛇が嫌いだった。けれどこのときばかりは幼い蛇を哀れに思った。
一瞬の油断が命とりになった。カラスの餌食(えじき)になり死んでしまった。
この幼い蛇を襲った衝撃的な運命にショックを受けた。
いくら生きていくためにしかたがないことだとはいえ、
自然界のきびしい掟にただぼう然と立ちつくしてしまった。
目の前でくり広げられた狩りにかたまった。なす術(すべ)もなかった。
衝撃が大きすぎて、純はしばらく立直れないまま、無言で立ちすくんでしまった。
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