第三十七話 月野姫華、天照大神になる?
「う〜ん、誰もいない……」
30分おきなんてかなりの高回転だなと思ったので、てっきり、毎回大勢の人が集まるのかな?と予想していたのだが……
「やっぱり、私があまりにも見目麗しいので、私と一緒だと引き立て役にしかならないじゃん。と思って避けてるのかな〜」
「月野姫華よ、ただ単純に今年の夏は暑すぎるので、外出、控えているだけだと思うぞ」
白フワちゃんはそう言いながら、ちっちゃい羽をパタパタさせ、私に風を送ってくる。
そっか……
もう仕方がないので、マンツーマンで案内を受けてやろうじゃないか!と思った瞬間だった。
年配夫婦と中学生くらいの女の子を連れたご家族登場。
「ふぅ〜、よかった。神職のヤツが口説いてきたら、殴っても大丈夫なのかな?って、心配してたよ」
「ひめか様〜!なんてことを!?先ほどの慎ましさは、どこいったんですかっ!?」
貝のヤツが私の発言を咎めてきたが無視。
しばらくすると、危うく私に殴られるところだった、神職さんが姿を現した。オモチャみたいな、肩から下げるタイプの拡声器を持っているようだった。
「何あれ〜!可愛い!てか、この人数じゃ、拡声器いらなくない?」
「ひめか様〜!聞こえちゃいますよ〜!静粛にお願いしま〜す!」
神職はしばらく進んだ後、小ぶりな屋根の前で立ち止まると、
「ひめか様〜!僕が言った説明と、あまり変わりなくないですか〜!?」
「バカ!あなた、何言ってんのよ!外国人観光客の方のために、優しい日本語で説明するようにしてるのよっ!不謹慎発言やめなさい!このバチ当たりめっ!」
「私は、二人まとめてバチ当たるんじゃないかと思っている」
そして、次に神職は拝殿前の一つの巨木の前で立ち止まった。
『こちらの木は、
「あら?神話の時代からある木としては、ずいぶん質素ね」
今までたくさんの巨木を見て回っただけに、迫力が足りないなと思ってしまった。
『その名の、
えぇぇえええ〜〜〜っ!!何ですとぉぉおおお〜〜〜っ!!
「あ〜ぁ、ひめか様やっちゃった〜!今日一の不謹慎発言!」
うっ……
『
「………!?」
「あら〜、これは大変!ひめか様には、ご縁と幸福が訪れないことが確実になってしまいましたね〜」
「…………。」
「か〜い君、ねえ、覚えてる?まだ消しゴムちゃんの供養してないのよ?」
「……え!?わー!わー!ひめか様は良縁に恵まれるはずだし、幸せになれると思いま〜〜す!」
「もう遅いわっ!お前も道連れにしてやるっ!」
「ひぇ〜!」
「……お前ら、いい加減にしとかないと、本当にバチ当たるぞ!」
「月野姫華よ、神職さんにお手間取らせるんじゃない」
「はい…すみません……」
私のせいだったのかな?
私のせいじゃないと思うけど……いつもの決まり事よね?
『みなさん、こちらから先は撮影禁止です。今から天照大神さまがお隠れになったとされる天岩戸を拝観します。神聖な場所ですので、静かに参拝してください』
神職は拝殿の隅にある小さな扉の鍵を開けながら、そう声がけをした。
「え?何それ?撮影ダメなの?ケチね」
「そりゃそうでしょ。ひめか様の
「誰の穢れが払えないって〜?穢れてんのはお前だろっ!てか、お祓い受けたのに何でまだいるのよ!早く成仏しろ!」
「私はどちらも穢れている思う」
扉をくぐった瞬間、そこは、俗世から切り離されたような、清らかな空間だった。木々の間を抜ける風が、どこか遠い場所から悲しい歌を運んでくるようだった。その音に耳を傾けながら、拝殿の裏手の小道を進んでいく。
天岩戸か〜、どんなとこなんだろ。
一歩一歩が重く感じられる。まるで心に
川のせせらぎが聞こえる。岩戸川だ。岩戸川の清流が、神話の時代から変わらぬ音を立てて流れている。その川の向こうに、深い緑に覆われた崖が見えてきた。
やがて視界が開け、対岸の断崖絶壁にぽっかりと開いた洞窟が見えた。ここが、日本神話で天照大神が身を隠したという天岩戸……
『あちらが、天岩戸です』
神職の声が響き渡る。
しばらくその洞窟を見つめていた。物語の中では、天照大神が引きこもったことで世界は闇に包まれたという。
神聖な雰囲気に感化され、背筋が伸びる。
畏敬の念を感じさせるその光景に、私は息を呑んだ。何千年もの間、この場所にあり続けた洞窟。
ただ静かに目を閉じた。
「たまには自分の中に閉じこもってみるのもいい。でも、大切なのは、そこから一歩踏み出す勇気ですよ」
思いがけない言葉が、私の意識に反し口から溢れてきた。
私の言葉を受け、その場にいる人たち全員の視線が集中する。そして、賛同する拍手が広がった。
祝詞の声が、風に乗って心に触れた。そんな感じだった。その声は、悲しみではなく、何かを慰めるように優しかった。
心に、すーっと光が差すのを感じた。それは、太陽の光ではなく、自身が放つ光だった。天岩戸から戻った天照大神のように、これからは自分の心のままに生きていこうと、そう心に誓える光だった。そして、その光は、遠い誰かの心にも、きっと届くと信じて。
拝観を終えた私は、再び
根元にそっと消しゴムを添え、手を合わせる。消しゴムは今までと同じように、白い煙へと変わっていって、人の形へと変化していった。
制服姿の女学生だった。丁寧にお辞儀をしてくる。そして、『お陰さまで助かりました』そう言ったような気がした。
「ねえ?白フワちゃん、さっきの声って何だったのか?もしかして、私って、天照大神だったのかな?」
「……月野姫華よ、もう一回、拝観してこい!」
※天岩戸神社西本宮の画像です(^^)
https://kakuyomu.jp/users/itf39rs71ktce/news/16818792439594089163
※自分のこと天照大神だと思ってる月野姫華のイメージ画像です(^^)
https://kakuyomu.jp/users/itf39rs71ktce/news/16818792439597428138
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