第二十一話 月野姫華、堰を切ったように爆発する!

「よぉっ!ひめか様、今日もお美しい!その美しさは天にも轟いてます!」

「うん。知ってる」


「…………。」


「なんてお美しく、しなやかなお姿なのでしょう。人間とは思えないようなプロポーションですね!」

「うん。知ってる」


「…………。」


「お顔が本当にキレイです!ひめか様のお美しい目鼻立ちには女神も脱帽です!」

「うるさいわね〜、とってつけたようなご機嫌取りしてくんなーっ!」


「え〜っ!褒めてただけなのに、なんか怒鳴られた〜っ!」


「藤井翔真よ、頑張ったな、よく心折れずに3つも言った!」

「白フワさん…最後ので…心折れました……」


 私達は今、筥崎宮はこざきぐうを訪れている。

 筑前国一之宮である筥崎宮は、福岡県福岡市東区にある由緒ある神社。大分県の宇佐神宮、京都府の石清水八幡宮とともに『日本三大八幡宮』の一つに数えられている。


 早く供養してもらって成仏したい貝のヤツは、あざとく私のご機嫌取りを始めたようだ。


「か〜い君!魂胆見え見えよ〜、その程度の褒め言葉じゃ私の心は動かないんですからね〜」

「魂胆なんて滅相もございません。ひめか様があまりにもお美しいので、ついつい口から漏れ出てしまった言葉です」

「藤井翔真よ、口が上手くなったな!きっともうひと押しだ、そのまま頑張れ!」


「だいたいあなたいつも何なのよ!何ではっきり言ってくれないのよ」

「え〜っ!僕が悪いんですか〜?ひめか様が人の話を聞いてくれないのが悪いのではないかと……」


「なに〜っ!」


 私が貝のヤツを睨みつけると、白フワちゃんはフワフワとその場を漂い出す。白フワちゃんが否定しないってことは、貝のヤツの言ってることは間違いではないのだろう。


 !?

 その時、私の心臓はスゥーっという感覚に襲われた。ジェットコースターに乗ってる時のような、急に落下した時のような奇妙な感覚だった。


 筥崎宮の二之鳥居をくぐった瞬間に起こった現象だった。


 今のなに?

 もしかしてくぐる時、一礼しなかったので神様が怒ったのだろうか?


 私は慌てて一礼をした。


「だからって何よ!女はいっぱい食べちゃダメだっていうの?」


 ??

「僕そんなこと言った覚えないんですけど……」


 あれ?私、急に何言ってんだろ?そんな話してたっけ?

 貝のヤツも私の何の脈絡もない急な発言に驚いている様子だった。


「たくさん美味しそうに食べてる姿、素敵だと思いますって言ってたじゃない!」


 ??

「それも言ってないと思いますが……」


「じゃあ、女は男の前ではお腹いっぱい食べてはいけませんって法律作りなさいよ!」


「ひめか様?もう言ってる意味がわからないのですが……?」

「月野姫華よ、次は食べ方にも気を配るということで、あの話は解決しただろ?」


 うっ……

 そうよね?何で急にその話蒸し返しているの?


「それに何?女は好きなもの買っちゃダメだっていうの?」

「それも僕ではないと思うんですが……」


「藤井翔真よ、諦めろ、こうなったらもう止められん。男代表として怒られろ!」

「え〜っ!」


「女はショッピングが長〜い、とか何とか言いやがって!長くないだろ!こっちはショッピングに来てんだよーっ!買いたいから来てんじゃないんだよっ!ショッピングを楽しむために来てんだよ!早いとか遅いとかねぇ〜んだよっ!このアホがっ!」


「え、え〜っと?何の話してたんでしたっけ?」


 私もわからないよ……私の口止まらない……。


「何の話してたんでしたっけだーっ!何言ってんだお前?女は話しちゃいけないわけ?おかしいでしょ」


「え〜っ!そんなこと言ってないで〜す!全く言っている意味がわかりませ〜ん!」


「話が長〜いとか、オチがないとか言いやがって!お互いの気持ちを共感し合えるのが楽しいんだよ。そこにオチなんて必要ないだろ!黙ってそうですねって聞いておけばいいんだよ、このタコっ!」


「タコ〜っ!なんか、さっきからいわれもないようなことで、僕、怒られているんですけど〜っ!」

「藤井翔真よ、供養してもらうためだ。頑張れ!」


「それに何よ、女性は男よりか弱くないといけないわけ?」

「げ〜っ!まだ続くんですか〜っ!」


「何でもかんでも高圧的に出れば言うこと聞くと思いやがって、暴力で女性を支配しようと思ってるから、できなそうな奴には関わらないようにするべきだな、と思ったから逃げたんでしょ。じゃあ何?男に力で敵わない女性は、一生お前らの顔色伺って生きていかなきゃならないわけ?普段から女性はお前らにどんだけ気を使って生きていると思ってんだよっ!ふざけんなっ!」


「……もう話が飛びすぎてて、何のテーマで話してるのか、わからなくなってきました」


「そもそもレディーファーストって何だよ!お前らがレディーファーストしてんのはお前らの周りにいるごく一部の女性だけだろ!周りにいる女性に向けての良い人アピールだろっ!道行く女性にレディーファーストしたことあんのか?バカでかい図体して、狭い道の真ん中、避けようともせず歩きやがって!すれ違う時避けるのはいつも女性の方じゃねーか!何がレディーファーストだよ!何がフェミニストだよ!日常生活からやってるやつなんて見たことねーわっ!このクソ男どもガッ!」


「僕はそんな偉そうな態度、とったことありませ〜〜ん!」


「ハァー、ハァー、ハァー……」


「月野姫華よ、だいぶ溜まってたみたいだな?吐き出していくらか楽になったか?」


 え?どういうこと?


 白フワちゃんは感情が爆発してしまった私を、気遣う様子で寄り添うように自分の身体を寄せてくる。

 白フワちゃんの身体のモフモフに触れると、毛布に包まれているような安心感と温かみを感じ、安らぎの感情が全身に広がっていく。


「白フワさん、ひめか様、どうなってしまっていたんですか?」


「ここは勝負事や困難な状況での成功を願う場所でもあるからな、男に負けたくないと思ってる感情が爆発したんだろう」


「月野姫華よ、おー!よしよし!お前は頑張って生きている!何も心配することないんだぞ!」


「う、うん……」


 私の身体に何が起こっていたのだろう?


 もしかして二之鳥居をくぐった瞬間に襲ってきた感覚って?一礼しなかったから神様が怒ったんじゃなくて、神様が私の感情を吐き出させるようにしてくれたってことなの?


 私の心の内、見透かされた?

 やっぱり神様って凄い!?


「う〜ん!なんかスッキリして、身体軽くなったって感じ〜♪白フワちゃん、神様〜!私、頑張る〜!」



「あ、あの〜、爆発された僕は……意識朦朧状態なんですが……」



※気持ちが晴れた表情の月野姫華のイメージ画像です(^^)

https://kakuyomu.jp/users/itf39rs71ktce/news/16818792438205224850


※筥崎宮二之鳥居です(^^)

https://kakuyomu.jp/users/itf39rs71ktce/news/16818792438197943214

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