第八話 『リアベールの宝珠と、魔王の逆転交渉術』──金の魔法と血命の誓約。

 おれたちは更に深く地下をすすむ。


「ディムリアさま。 大分すすみましたよ。 さすがにこれ以上進むとモンスターの回避は難しくなる。 どこです宝のある場所は?」


「もうすぐじゃ、ほらみえてきた」  


「あれは! シュンさん扉です!」


 セリエスの方をみると目の前に巨大な扉が現れた。


「これが扉ですわ? ......でも鍵も取っ手もないですわ」 

 

「任せよ」


 ディムリアが扉のまえにたち触れると、光が紋様を描き、ゆっくりと扉が開いた。


「おお!」


「我の魔力に反応するのじゃ、ふふん!」


 ディムリアは鼻を膨らませて胸を張る。


「お宝だ!!」


「無視するでない!」


 大きい柱が無数にある部屋はがらんとしている。 柱には大きな傷が無数にあり、焼けたあとなどもある。 


「えっ...... これは」


「おかしいな。 さまざまな宝飾品で飾り立てられていたのだがな。 全くなにもない」


「どうやらやられたみたいですわ」

 

 ミリアは上をみている。 天井にあながあいて空がみえている。


「......これは盗掘ですね」


「なんだと!!」


「みたいじゃな。 確かに魔法で扉は封じておったが、上は無防備じゃな。 かっかっか!」


 そうディムリアは豪快に笑っている。


「くそっ! なんのためにこんなところまできたと思っている!」 


「これは?」


 ミリアがいうほうにこった意匠の剣が落ちていた


「おお! 剣か! だめだ、鞘のまま錆びて抜けもしない。 ガラクタか......」


「あっ!」


 セリエスが奥に走っていく。 帰ってきたその手には丸い透明な玉がある。


「これ」


 興奮したようにその玉をみせた。 とても高価そうなものではない。


「なんだそれガラス玉? 価値無さそうだな」


「いや、それは魔力珠じゃ。 魔力をためておける古代の魔法具じゃ」


「これがリアベールの宝珠ですか」


「ああ、そうじゃ。 やつはその宝珠に魔力をためて使ったのじゃ。 厄介じゃった」


「そうですか。 やはり父さんたちは本当のことをいっていたんだ」


 セリエスは宝珠を両手にのせ、感慨深そうにそうつぶやいた。


(どうやら、ガラクタの剣とあれしかめぼしいものはなさそうだな......)


 おれは失意のうちに地下から帰還した。



「では、ぼくはアバレスト公爵さまへこの宝玉をみせてきます!」


 そういって満面の笑みでセリエスは走っていった。


「気をつけてですわ......」


「どうした? ミリア浮かない顔だな」


「アバレスト公爵家はかつて王に剣をあたえられ、魔王といわれるものを討伐した功績で領主にされた貴族ですわ」


「魔王か。 ディムリアさま、しってるの?」


「アバレストなどしらぬ...... いや、リアベールについていた貴族風の小太りの男がいたの。 臆病で剣をおとしてすぐにげおったがな」


「ふむ、おれと同じ種類の人間か。 うまくやったものだ。 あやかりたい」


「感心するなですわ!」


「すこし気になるが...... そうだ。 ディムリアもついていってこいよ」


「なんでじゃ?」


「お前も国に面倒見てもらえ」


「なっ!? 貴様、我が下僕となったであろう!」


「もう解消だ。 お宝はなかったんだから」


「なんじゃと!!」


「おれはスキルがある。 ミリアは魔法がある。 お前はなんにもない。 おれたちに無駄飯ぐらいを養う金はない」


「魔法は魔力が回復すればつかえる!」


「なら魔力が回復したらな。 じゃあな」


「我は魔王ぞ! 偉いんじゃぞ! うわああああ!!!」


 ディムリアは地面でバタバタとだだをこねはじめた。


「かわいそうですわ。 さすがに一人で生活は難しいですわ」


「ぬう...... しかしおれたちだけでも生活は苦しいんだぞ。 特におれはできる限り働きたくない。 最小の稼ぎで生きていきたいんだ」


「......とめどなくサイテーですわ」


「金じゃな! 金があればよいのじゃな。 それはゴールドでもよいな!」


「ゴールド...... まあ、それでもいいが、なんかあてはあるのかよ」


「うむ、宝物はなかったが、金を生み出す魔法がある。 それがある場所もな」


「なんだと!? ミリアそんのものあるのか!!」


「確かに古代には金を生み出す魔法があるですわ」


「金をつくれる...... 億万長者も夢じゃないな! よし、どこにある」


「まて! その前に契約じゃ。 貴様は裏切るからな」


「くっ...... さすがに、もうだませんな。 いいだろう。 どんな契約だ」


「これは魔力を使った契約で、魔法がつかえぬ我でもつかえる。 契約で行動をしばり破れば死ぬ」


「......重いな」


「それぐらい強制力の強い約束だ。 それなら互いに嘘をつけまい」


「なるほど、で条件は?」


「お主が生涯我を養う、それでどうじゃ?」


「生涯...... 面倒だな。 本当に金をつくれるんだろうな?」


「当然じゃ。 これは我にも制約がかかる。 嘘をつけば我も死ぬ」


「確かにそういう契約はあるですわ」


「なるほど...... よしいいだろう」


「ならば、契約だ」


 ーー命をその対価として、ここに我ディムリアとシュンとの盟約を結びたもうーー【血命の誓約】


 そうディムリアが唱えると互いの胸に光る紋様がうかんできえた。


「これで契約は完了だ。 そなたも我も契約をたがえることはできぬ」


「わかった。 じゃあさっそく......」


 そのとき、向こうから肩を落としてセリエスがやってきた。


 

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