パンと秘密と、最後の春

@setsu0217

第1章「衝突のはじまり」

春の風は、いつだって期待と不安を一緒に連れてくる。

私はコンビニで買ったたまごサンドを片手に、自転車を全力でこいでいた。

時間なんてとっくにギリギリで、制服のリボンもズレてるし、髪もちゃんと整ってない。でも、もうどうでもよかった。

だって今日は、高校の入学式。

新しい生活、新しい出会い、きっと、なにかが変わる――そんな予感で胸がいっぱいだった。

「ヤバ、ほんとに遅刻しちゃうかも…!」

口にくわえたサンドイッチが、走るたびにぷるぷる揺れる。あと10分で校門が閉まる。間に合うか間に合わないか、まさにその境界線だった。

私は角を曲がって、細い路地をショートカットしようとした――そのときだった。

ドンッ!

「うわっ!」

「きゃっ!」

何かにぶつかって、私は自転車ごと転んだ。

顔に柔らかいものがぶつかって、その拍子にサンドイッチが宙を舞った。

でも、それどころじゃなかった。倒れた私の前に、同じように制服を着た女の子が、こちらを見て目を丸くしていた。

「え…?」

思わず声が漏れる。

その子も私も、口にパンをくわえていた。

倒れて、同じように、頬に赤いすり傷ができていて、そして――

「……え?」

「え?」

……そっくりだった。

同じ髪型、同じ目のかたち、口元、背の高さもほとんど同じ。

鏡を見ているのかと思うくらい、そっくりなその子は、まるでもうひとりの私みたいだった。

「えっと……ご、ごめん! 大丈夫!?」

先に立ち上がったのは私だった。慌てて手を伸ばすと、その子も「あ、うん」と言って立ち上がった。

「私も前見てなかったし、ごめんね。でもすごい……」

「……え? なにが?」

「なんか、私たち……めっちゃ似てない?」

その瞬間、二人とも吹き出した。

笑いながら、私は自然とその子に手を差し出していた。

「えっと、私、愛菜(あいな)。あなたは?」

その子は、ちょっとだけ困ったように笑って、でもすぐに笑みを浮かべて言った。

「結南(ゆいな)。よろしく、愛菜ちゃん。」

そのときの笑顔は、どこか少し影をまとっていた気がするけど――

あのときの私は、そんなこと、気づくはずもなかった。

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