迷子

「だ、誰ですか!?」


 俺とリリンを守るように、エルンが俺たちの前に立つ。

 草むらを揺らした何かは驚いたのか、しばらく動くことはなかった。

 エルンと草むらの睨み合いが続く。


「あ、あの......」


 突然、草むらから女の子の声が聞こえてきた。


「子、子ども......?」


 声を聞いたエルンは、警戒を解く。

 それを見て安心したのか、草むらを揺らした何かは姿を現した。


「な、なんでこんなところに子ども一人で......!」


 俺は驚いた。

 草むらから出てきたのは、十歳にも満たなさそうな女の子だった。

 何故、こんなところに女の子が一人でいるのだろうか。


「お、お姉ちゃんたちは悪い人......?」


 涙目になりながら、エルンに質問する。

 エルンは少しだけ困惑しつつも、女の子に歩み寄る。


「ひっ......!」


 女の子は少しだけ後ずさりする。

 怖がらせてしまったと思ったエルンはしゃがみ、目線を女の子に合わせる。

 そして、女の子の頬に触れる。


「大丈夫ですよ。私たちは貴方の、人間の味方ですよ」


 親指で女の子の涙を拭きとりながら、そう言った。


「う......。うわあああああん!」


 エルンの優しさに安心したのか、女の子は泣きだし、エルンに抱き着いた。

 そんな女の子を、エルンは優しく抱きしめ返した。



 しばらくすると、女の子は落ち着いた。


「それで、どうして君一人でこんな所に......?」


 リリンが質問する。


「あのね......。村が怖い魔物に襲われて......。すぐにみんなで逃げたんだけど、お母さんが大切な指輪を置いてきたって......。それで......」


「......それで一人で取りに来た、と......」


 俺が聞くと、女の子は無言で頷いた。


「......なぁ、この子のお母さんの指輪、探してやらないか?」


「え......? いいの......?」


「賛成です! 探しましょう!」


「私も賛成。......そうでないと、帰したところでまた取りに来るかもしれないし......」


「あ、ありがとうございます!」


 先ほどまで悲しそうにしていた女の子が、ぱぁっと笑顔になる。


「でも、まずは君を返さないとね。もし魔物が現れて、戦いに巻き込まれたら大変だし」


「そうだな」


 リリンが提案し、俺は賛同した。


「じゃあ、君の今住んでいる場所に案内してくれる?」


「うん!」


 エルンが優しく聞くと、女の子は元気に答えた。


「あ、そうだ。多分君疲れてるでしょ。私がおぶってあげるよ。ということで、ライトくんは私のリュックサックを持って」


 リリンはリュックサックを下ろす。


「ああ」


 俺はリリンからリュックサックを受け取り、リリンは女の子をおんぶした。


「それじゃ、行きましょうか!」


「案内よろしくね」


「うん! まずはあっち!」


 俺たちは、女の子が指差す方向へ歩き始めた。

 

 

 それから、女の子の指示に従って歩き続けたが、なかなか女の子が住んでいる場所へ到着することができなかった。

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