第25話 主張された王冠

 マレディの殲滅に続いた沈黙は、どんな戦いの叫びよりも重く、恐ろしかった。広間の中央で、黒い棘の玉座は城の聖なる石に対する冒涜であり、それに座るアーサー――あるいはアーサーの顔を使っている何者か――は、穏やかで絶対的な力の化身だった。彼の周りの空気は濃密で、抑圧的で、まるで重力そのものが彼の意志に屈しているかのようだった。


 玉座の王の視線は、眼下の跪き、無力なオブスキュリアに戻った。雄弁な捕食者、心理的拷問の達人であったローカスは、今や恐怖からではなく、自らの存在そのものの無効化から震えていた。


「弱さとは、病だ」ダブルキングの声が、旋律的で冷たく響いた。


 彼は指を一本上げた。


「貴様の罰は…忘却だ」


 ローカスを捕らえていた棘の蔓が収縮した。 brutal な圧殺ではなかった。その代わり、棘は黒い光で輝き、オブスキュリアの本質を吸収し始めた。ローカスは叫ばなかった。彼の影の姿は崩れ、吸い取り紙の上のインクのように棘の中へと引きずり込まれていった。数秒のうちに、何も残らなかった。塵さえも。ただ、玉座と、それに座る王だけが。


 沈黙を破ったのは、アメシストだった。以前は衝撃の仮面だった彼女の顔は、今や俺が今まで一度も見たことのない恐怖で青ざめていた。それは強力な敵への恐怖ではなかった。自然災害への恐怖だった。


「逃げて!」彼女は、パニックでかすれた声で叫んだ。「ここから出て! 今すぐ! あれは…あれは、目覚めた!」


 彼女の警告は、遅すぎた。


 重い足音が、玉座の後ろで響いた。ソウの王が、戦いで傷ついた鎧をまとい、近づいてきた。その顔は痛みと諦観の仮面だった。彼は部下の騎士たちの死体にも、破壊にも目を向けなかった。その疲れた目は、息子の姿に固定されていた。


「そうか」王の声は重々しく、父親の嘆きと君主の命令だった。「お前は、目覚めたか」


 ダブルキングは振り返らなかった。彼はローカスがいた虚空を見つめたままだった。「ゴミは片付けられた」彼は、穏やかな声で答えた。「当然の権利として、私のものを取り戻す時が来たのだ」


「お前に権利などない」王は言った。その声の痛みは今や鋼鉄に染まっていた。「お前は、我が息子の魂にまとわりつく、ただの影だ」


「私は力だ」ダブルキングは言い返し、ついに首を巡らせ、その冷たい視線が父のそれと交わった。「王冠。玉座。それらは、私のものだ」


 見もせずに、彼は片手を上げた。王の足元の地面から、槍ほどの大きさの黒曜石の棘が噴出し、下から彼を貫こうとした。


 アメシストの方が速かった。叫び声と共に、彼女は王の前に身を投げ出し、厚さ五層のアメジストの壁を作り出した。棘は想像を絶する力でそれに衝突した。最初の四層はガラスのように砕け散った。最後の一層は持ちこたえたが、危険なほどにひび割れ、アメシストは後方へ吹き飛ばされ、血を吐いた。


(彼が…彼が、自分の父親を攻撃した?)俺の心は、処理を拒んだ。(躊躇なく。警告もなく)


「無礼な」アクセルは囁いた。その笑顔はついに消え、恐怖の表情に変わっていた。彼は両手を合わせ、玉座の周りの空気が歪み始め、彼のポータルの一つが形成され始めた。「この場所から出させはしない!」


 ダブルキングは笑った。喜びのない音だった。「お前の、ちっぽけな空間魔術か?」


 ポータルが完全に形成される前に、何十もの棘の蔓が地面から噴出し、彼を打った。貫くためではなく、粉砕するために。ポータルは火花の雨となって霧散し、アクセルは遠い壁に叩きつけられ、力なく落ちた。


 守護者たちが無力化され、王は無防備になった。だが、ダブルキングは再び彼を攻撃しなかった。彼は興味を失ったようだった。


「この城…この王国」玉座の王は、軽蔑のため息と共に言った。「なんと弱さに満ちていることか。なんと…汚れていることか。浄化が必要だ」


 彼は目を閉じた。そして、世界が叫び始めた。


 中庭の地面から。城の壁から。外の首都の石畳の通りから。黒い棘が、噴出し始めた。


 俺は、恐怖に駆られて、広間の入り口から見ていた。太い蔓が家の土台を引き裂き、紙でできているかのようにそれらを倒していく。それらは城壁を貫き、像を砕き、何世紀もの歴史を数秒のうちに破壊していった。そして人々…街から響き始めた叫び声は、俺を永遠に悩ませるであろう音だった。あれは戦いではなかった。駆除だった。浄化だった。


 彼は自らの家を、自らの民を、破壊していた。そしてその顔には、怒りも、悲しみもなかった。ただ、気に入らないゲーム盤を掃除する王の、退屈さだけが。


 王の姿、自らの遺産の廃墟の中に立つ父の姿が、俺を打った。彼の命令。彼の最後の、絶望的な賭け。彼を、彼自身から救え。


 俺が、軽々しく交わした約束が、今や山のように俺の魂にのしかかっていた。俺は英雄ではない。戦士でもない。異世界から来た、内気な学生だ。だが、俺は約束したのだ。


 俺は、ただ立っているわけにはいかなかった。


 深呼吸をし、ほとんど体を支えられないほど震える足で、俺は隠れていた柱の後ろから出た。俺は広間へ、あの怪物の力の中心へと、足を踏み入れた。


「アーサー!」


 俺の叫び声は、破壊の騒音の中で、哀れなほど弱々しく響いた。だが、彼は聞いた。


 棘の噴出が止まった。突然の重い沈黙が落ちた。玉座の王はゆっくりと首を巡らせ、その灰色の目が、まるで特に騒々しい蟻でも見つけたかのように、純粋な好奇心で俺に固定された。


「これが、お前の望みか?!」俺は叫んだ。パニックが、俺が持っていない勇気を与えてくれた。「お前の父が戦うすべてのものを破壊することか?! お前が守るべき人々を破壊することか?! 周りを見ろ! ここがお前の家だ!」


 ダブルキングは長い間俺を観察していた。「無礼な」彼は、穏やかな声で言った。「貴様は何者だ、虫けらよ、王に話しかけるとは」


「俺は、お前の父がお前を止めるように頼んだ人間だ!」俺は言い返した。論理は完全に俺の言葉を放棄していた。


 彼は微笑んだ。「では、貴様が彼の哀れな希望か?」彼は指を一本上げ、何十もの針のように鋭い棘が地面から噴出し、俺の方向へ飛んだ。


 俺は目を閉じ、よく知る耐え難い痛みを待った。


…だが、何も起こらなかった。


 目を開けた。黒い棘は俺の肌から数センチのところで止まり、空中で震え、俺に触れることができなかった。見えない力、俺自身の異常な性質が、それらを弾いていた。


 ダブルキングの反応は、即座だった。楽しげな笑みは消え、純粋な苛立ちのしかめ面に変わっていた。彼の絶対的な意志が、屈しない物体に出会ったのだ。彼の破壊命令が…無視された。力と支配に基づいてアイデンティティを築いた存在にとって、それは最大の侮辱だった。


「面白い」彼は囁いた。退屈さは、冷たい怒りに変わっていた。


「彼を放っておきなさい!」


 立ち直るのに十分な回復をしたアメシストが、最後の絶望的な攻撃で彼に突進した。彼女が二歩も進まないうちに、一本の黒い蔓が、さりげない軽蔑で空気を切り裂き、彼女の胸を打った。その音は鈍く重い打撃音で、彼女は布人形のように後方へ吹き飛ばされ、王の足元で意識を失って倒れた。


 王は、彼女を助けるために動かなかった。彼はただその光景を眺めていた。その顔は悲劇の仮面だった。その目の希望は、消え去っていた。


 ダブルキングは玉座から立ち上がり、彼の周りの棘が飢えた蛇のようにうごめいた。その灰色の目は俺に固定され、今や氷のような憤怒で輝いていた。


「貴様は、苛立たしい」


 彼はゆっくりと俺の方向へ歩き始めた。「貴様の奇妙さが、私が貴様を個人的に消し去ると決めた時に、耐えられるかどうか、見てみよう」


 アメシストは倒れていた。グレタは、意識不明。王は、精神的に敗北していた。ただ、部屋の反対側で苦労して立ち上がるアクセルと、俺、不死身だが役立たずの少年だけが、たった今棘の玉座を主張した暴君の王に、立ち向かうために残されていた。


――――――――――――――――――

【★あとがき★】

「面白かった」

「続きが気になる」

「主人公の活躍が読みたい」

と思ったら

「作品へのフォロー」をお願いします!

「★の評価」も是非!

(面白かったら星3つ、つまらなかったら星1つ!)

★をいただけると、作者のモチベーションがすごく上がります!

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る