第6話 適性評価(俺の《シメ》だろ、これ)

第6話 虚無の部屋と悪魔の査定

 俺は、論理ろんりに反する廊下をエスコートされていた。外から見ると、ウロボロス社の建物は企業の高層ビルだった。中も、引き続き企業の高層ビルだった。白い大理石の床は磨き上げられていて、俺自身の怯えた顔の歪んだ反射が見えた。壁は臨床的りんしょうてきな白で、照明は天井に埋め込まれたLEDパネルから発せられ、俺の歯医者の診察室を思い出すような冷たく無個性むこせいな光を放っていた。


 アメシストは前を歩いていたが、驚くほどプロフェッショナルな姿勢で、まるでプロジェクトマネージャーが新しいインターンを会社に案内しているかのようだった。アーサー、つまり正体しょうたいあらわしたダブルキングは、俺の隣を、無言で無表情に歩いていた。彼の髪は相変わらず完璧だった。俺はその髪が嫌いだった。


(これって就職面接か? 俺は候補者? 求人募集は何だ? 『無能な神に誘拐された、乗り気じゃない英雄』? あまり福利厚生ふくりこうせいが良さそうな職には見えないな。履歴書りれきしょ持ってくればよかったのか? 俺の高校の成績は別にすごくないけど、もしかしたら『超音速自由落下からの生還者せいかんしゃ』を特殊スキルとして書けるかもしれない。「冷静をよそおいながら内部でパニックに陥る能力」とか。得意分野だし)


 一歩ごとに、静かな廊下に足音が響いた。神経をすり減らされる。まるで校長室に向かう途中みたいで、自分が何をしたかも分からないのに叱られるような気分だった。


 ついに、アメシストは取っ手のない巨大な両開きのドアの前で立ち止まった。ドアは柔らかいブーンという音を立てて内側に開いた。


◇◇◇


 その向こうにあったのは、オフィスではなかった。それは……虚無きょむだった。無限に広がる白い空間。床、壁、天井が同じぎ目のない白い素材でできており、場所の距離や大きさを区別くべつすることは不可能だった。まるでゲームのロード画面、世界がレンダリングされるのを待つ境界空間きょうかいくうかんのようだった。


 そして、その中央には、瞑想めいそうでもしているかのように床に胡坐あぐらをかいて座っている少年がいた。


 彼は俺よりも年上には見えなかった。周囲に溶け込む白いシンプルな服を着て、短く黒い髪をしていた。その顔には、微笑み。穏やかで、静かで、絶え間ない微笑み。まるで宇宙の秘密をかし、それを面白がっているかのようだった。


 車ほどの大きさのクリスタルの拳を作り出し、サメ男と対峙した女、アメシストは、俺が予想しなかったことをした。彼女は敬意けいいめてお辞儀じぎをした。


「ズアン様、お連れしました」


(様? 俺の脳はブルースクリーンになった。彼女は高校生にしか見えないこの少年を「様」と呼んだのか? こいつがボスなのか? 俺の兄より若く見えるぞ! もしかして彼は、CEOになった天才インターンなのか? ここは狂ったファンタジーのスタートアップ企業か?)


 少年、ズアンは目を開けた。穏やかな金色で、彼の微笑みがわずかに広がった。「ウロボロスへようこそ、タイキ。あなたをお待ちしていました」。彼の声は、その表情と同じくらい穏やかだった。


 俺はそこに立ち尽くし、ぼさぼさの髪で、海水でまだ湿った服のまま、ただ呟いた。「あ……どうも。俺を待っていた? それって、こいつらに誘拐されて人間ボウリングの玉にされるより、ずっときちんとしてるように聞こえるんだけどな」


 ズアンは笑った。本物で、軽やかな笑い声だった。「うちの……仲間たちのやり方については、申し訳なかった。時々、彼らは少し……熱中しすぎるんだ」


「熱中しすぎ、ねえ。片方はサメの歯を持ってるし、もう片方は巨大な石で俺を潰そうとしたんだけど」と俺は言い返したが、すぐに上司の前で誘拐犯を批判すべきではないことに気づいた。


「ええ、彼らはとても激しいですね」ズアンは微笑みを崩さずに同意した。「起こったことはすべて予見よけんされていました。そうですね、たぶん、13大幹部の一人であるズリのせいかもしれませんね。彼女があなたの……到着の場所と時間を正確に予見したのです」


(つまり自由落下も計画の一部だったってことか? 新人を死にかけさせるような人事計画って何なんだ?)


「あなたはすでに我々の最も著名ちょめいなメンバーの一部に会いましたね」と、彼は俺にチームを紹介するかのように続けた。「『アメシスト』として知られるアメシスト……」


(なんてクリエイティブな)


「……そして、『ダブルキング』と呼んでいるアーサー」


(彼はチェスが得意なのか? それとも二つの小さなものの王様か?)


 ズアンはそれから自分を指差した。「そして私がズアンだ。会えて嬉しいよ。私の称号は『悪魔』だ」


 微笑みは消えなかった。穏やかで。友好的だ。彼がたった今発表した称号とは全く一致しない。俺がその情報を処理する間、気まずい沈黙が流れた。


「すみません、でも……」俺は我慢できずに口を開いた。「『悪魔』? あまりそうは見えませんね。角もないし、尖った尻尾もないし……笑ってますし。俺がゲームで見たほとんどの悪魔は、こんな風に笑いませんよ」


 アメシストは「黙れ、この馬鹿」と言いたげな目で俺を睨んだが、ズアンは再び笑った。「それは機能的きのうてきなニックネームであって、文字通もじどおりの意味じゃないんだよ、タイキ。悪魔からは何も隠せないからね」


 彼がそう言ったとき、彼の絶え間ない微笑みがほんの一瞬揺らいだ。彼の金色の目が俺をじっと見つめる中で、わずかに細められ、俺は何か正体不明しょうたいふめいものの輝きを見た。混乱? 好奇心? まるで、単純であるはずの数学の方程式を解いているのに、結果がおかしくなっているように見えた。

(彼は……俺の何か、彼自身も解読かいどくできない何かに困惑しているようだった)

.その感覚は一瞬しか続かなかったが、すぐに穏やかな微笑みが彼の顔に戻った。だが、俺はそれでゾッとした。


◇◇◇


「さて、形式的けいしきてきな挨拶はここまでにして」ズアンは軽く手を叩き、驚くほどなめらかな動きで立ち上がった。「適性評価てきせいひょうかを始めよう!」彼の口調は、体育教師がドッジボールの試合を発表する時のように生き生きとしていた。


「評価?」俺は疑わしげに尋ねた。


「もちろんさ! 君がうちの組織のどこにフィットするかを知る必要があるからね。君の強み、弱み、潜在能力せんざいのうりょくを測るんだ。標準的な手順だよ」彼は陽気に説明した。


(人質が不本意ふほんいながら就職候補者になった場合の標準手順、ね)


「最初のテストは簡単だ」ズアンは続け、彼の笑顔は今や少し不吉ふきつに見えた。「君の腕力と戦闘本能せんとうほんのうを評価する」


 それから彼はアメシストを指差した。彼女は一歩前に出て、指の関節を鳴らした。彼女の拳の周りに紫色の輝きが形成され始め、ライオネルとの戦いの時と同じ捕食者のような笑顔が彼女の顔に広がった。


「アメシストと戦ってもらう」ズアンは、お茶を勧めるのと同じくらいの落ち着きで発表した。


 俺はズアンを見た。次に、アメシストの腕に形成され始めている車ほどの大きさのクリスタルの籠手を見た。そして再び、ズアンの穏やかでるぎない笑顔を見た。


 俺の顔からいた。左目には神経性のチックが始まった。口が開いたが、声が出なかった。それは、自分の能力評価が貨物列車かもつれっしゃに轢かれることだと告げられた男の顔だった。クリスタルと怒りと、そしてとてもクールなヘアスタイルでできた貨物列車にだ。


「準備ができたら始めてくれ!」ズアンは陽気に言った。


(俺は準備できていなかった。俺は決して準備できることはないだろう)


――――――――――――――――――

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