第3話『連続失踪事件』

「麗は死んだんです!私達家族はもう忘れたいんです!これ以上警察の方にお話することはありません!」


 息子の創の動画に映り込んでいた女性、笹川 麗の実家を訪れた俺達に母親はこう言い放った。


ライブラLibra、笹川 麗の死亡届は自治体に提出されているのか?」

「いえ、笹川 麗の死亡届が受理された記録はありません」

「ということは家族は死んでいない娘のことを死んだと誤解しているのか?」

「そうなりますね」

「どういうことだ、これは」


 眼の前の母親から少し横に視線を逸らすと洋服箪笥の上に遺影が飾られていた。どうやら娘が死んだと本気で信じているようだ。


「麗さんの部屋を見せてもらっても宜しいでしょうか?」

「どうぞ、麗が生きていた頃そのままにしていますから少し散らかっているかもしれませんが…」

「構いません、お願いします」


 笹川 麗の部屋は母親が言う通り、生前に使っていたそのままの状態で放置されていた。机にはBTubeのゴーグルが置かれている、笹川 麗も世代らしくBTubeのヘビーユーザーだったのだろう。


「ん?パソコンに何かケーブルが刺さっているな。これは何の為のケーブルなんだろう。ライブラLibra、このケーブルの使用目的は分かるか?」

「いえ、私も今までこのようなタイプのケーブルは見たことがありません。先端の端子も今まで見たことのない形状をしています」

「何か手がかりになるかもしれないな、母親に持っていって良いか許可を取ろう」


「お母さん、このケーブルに何か心当たりはありますか?麗さんの部屋のパソコンに刺さったままになっていたのですが」

「さぁ、私は機械には疎いので全く…」

「失礼ですが、こちらを少しの間お借りすることは出来るでしょうか?」

「えぇ、構いませんよ。どうせ何に使うか分からないものですし」

「ありがとうございます。事件が解決した折には必ず返却しますので」

「事件?」

「い、いや、独り言です。忘れてください」

「はぁ…」


 こうして俺達は謎のケーブルを入手して笹川宅を後にした。そして、残りの失踪した4人の家も訪れてみたが、やはり笹川 麗の家族と同様に失踪した当人は既に死んでいると誤解していた、死亡届が受理されてないにも関わらず。ということは、失踪事件の家族は全員、記憶が何らかの方法で改竄されているのか?また、4人の部屋には笹川 麗の部屋で発見したものと同型のケーブルがパソコンに刺さったままになっていた。このケーブルが事件を解く鍵になるのだろうか?


「さて、失踪事件の当事者宅を回って得られたのはこのケーブルだけか」

「5人はこのケーブルを何に使っていたんですかね?」

「さぁな、ただ5人の家に同じように残されていたところから考えるに、事件解決のヒントになる可能性はある」

「ただ、使用目的が分からない事には捜査しようがないですよね…」

「いや、いくつか目星はつけている」

「ホントですか、先輩!」

「まずはBTube社に行くぞ」

「なるほど、5人の部屋にBTubeのゴーグルが残されていましたもんね。BTubeに使用する何らかの追加機器かもしれませんし」

「それを確かめに行こう」


「いま代表取締役社長の堀江 瑞樹が参りますのでこちらでお待ち下さい」


「お待たせ致しました。山岸さん、でしたか?」

「はい、山岸です。堀江さん、今回は突然の訪問失礼致しました」

「いえいえ、何か急を要する事件の捜査なのでしょう?私が分かることなら最大限協力致しますよ」

「それでは時間も惜しいので単刀直入にお聞きしますが、堀江さんはこちらのケーブルに何か見覚えはありますか?」

「ちょっと近くで見せてもらっても良いですか?どれどれ。いやぁ、分かりませんな。このケーブルは何に使用するものなのですか?」

「それをお聞きしたくてこちらまで出向いたのですが…。このケーブルはBTubeに関連する機器ではないのですか?」

「我が社のBrainTubeはゴーグル一つで利用できる簡単さが最大の強みだと考えていますので、余計なケーブルの類を必要とすることはありませんね」

「そうですか、ありがとうございます」

ビヨンドBブレインB社には行かれないのですか?」

「ちょうどこのあとお話を聞きに行こうと考えていました」

「BB社のPPineal gland-BMIに関連する機器である可能性はあるかもしれませんね」

「やはりそう思いますか?」

「えぇ」


 BTube社を後にした二人は次にBB社へと向かった。BB社の日本法人は六本木の高層ビルの中層階に位置し、最高な眺望を誇っている。先程のBTube社の応接室も素晴らしかったが、こちらは眺めがとにかく素晴らしい。待っていると代表取締役社長のマーク・クロフォード氏が直接会ってくれるとのことだった。


「山岸さん、お待たせ致しました。代表取締役社長のマーク・クロフォードです」

「流暢な日本語ですね。今回は突然の訪問で申し訳ありません。お時間を作って頂いてありがとうございます」

「いえいえ、日本の警察の頼みとあれば喜んで」

「それではいきなり本題に入りたいのですが、クロフォードさんはこちらのケーブルに何か見覚えはありますか?」

「山岸さん、あなたはこれをどこで?」

「実はある連続失踪事件の捜査をしていまして、その被害者宅に残されていたものです。被害者5人の自宅全てにこのケーブルが残されていたので、事件に何か関係があるのではないかと考えているのですが」

「ほう、ということは一般人の部屋にこのケーブルが残されていたということですか。それは問題ですな」

「問題?というと?」

「このケーブルはP-BMIのメンテナンス用のケーブルです。実はP-BMIにはメンテナンス用の端子が備わっていまして、何かトラブルがあった際にこのケーブルを端子に接続して修理を行うことになっています。しかし、P-BMIのメンテナンス端子のことも専用のケーブルがあることも一般には公開していない情報になりますので、このケーブルが一般人の手元にあったということは重大な情報漏洩になりますな」

「そうなんですか」

「更に言えば、このケーブルはうちで製造しているメンテナンスケーブルより粗悪に出来ている。内部の人間が外部に情報を漏洩し、海外の業者などに依頼して独自に製造したケーブルである可能性があります。我が社としてもこのケーブルの存在を公にすることは会社の信用を失うことになりますので、是非ともこのことは内密にして頂きたいですな」

「分かりました。このケーブルのことはここだけの話ということで」

「それで山岸さん、少しお願いがあるのですが、そのケーブル、少しお借りすることは出来ますでしょうか?我が社の方でそのケーブルを製造した業者などを特定して適切に処置したいと考えておりまして」

「大丈夫です、大事な証拠ですのであとで必ず返却頂ければ」

「ありがとうございます。では、少しの間こちらでお借りします。今回は貴重な情報提供ありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ、このケーブルがどういった目的で使用するものか判明してスッキリしました。ただ、なんでP-BMIのメンテナンス用ケーブルが連続失踪事件の被害者の部屋に残されていたのかという疑問は残りますが」

「そこに関しては我々も全く分かりませんな」

「仮に、仮にですがそのメンテナンス用のケーブルをP-BMIに接続して内部の情報を書き換えるといったことは可能でしょうか?」

「それは不可能ですな。P-BMIに情報を追記したり変更したりする機能は元々備わっておりませんので」

「そうですよね。本日は貴重なお時間をありがとうございました」

「事件、解決すると良いですな」


 クロフォード氏が嘘を言っているようには思えなかった。とりあえず一度署に戻って仕切り直すか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る