閑話02 逃亡の記憶

——星が落ちる音がした。


荒い息を吐きながら、少女は懸命に逃げていた。


土の匂い、焦げた木の匂い。


水分を失った花がひしゃげて潰れ、花びらが無残に地に落ちていた。


かすれた吐息、上下する肩。


けれど、止まれない。


遠くから誰かの足音が聞こえた。


見つかれば、終わる。


身体も、足も、ひどく冷たい。


裸足だった。


泥と血で汚れた足を動かし、瓦礫を越え、草を踏み分ける。


暗い森の端まで来た。


少女は振り返らず、ただ逃げた。


名前も、過去も、すべてを捨てて。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る