第3話
「私には幼馴染がいるの。名前は西池颯太」
「なるほど、幼馴染ね」
「うん。家も近所で幼稚園からずっと一緒。
小学校も中学校もおんなじで、中学に上がる前くらいまでは、ほとんど毎日一緒にいたの」
よくある漫画やアニメの様に家族ぐるみでの付き合いではなかったけど、よくお互いの家に行き来して遊んでいたっけ。
流石に一緒にお風呂に入ったりお泊りとかはなかったけどね。
「幼馴染はどんなやつ?」
「小さい頃はよく馬鹿なことやってお母さんとか先生に怒られてた。それでも明るくて友達も多かったかな。クラスの中心ではなかったけど、いざという時は頼りになるみたいな」
「主人公系陽キャみたいなやつだ」
「ふふっなにそれ」
彼の言い方に思わず笑ってしまう。
でもたしかにそんな感じだったかも。
「小さい頃からずっと一緒に居たからかな。
颯太の隣にはずっと自分が居るんだって思ってたんだ」
あの頃まで本当にそう思っていた。
大人になってもずっと一緒に居られるって。
「でも中学2年の時に颯太が別のクラスの女子に一目ぼれして少しずつ変わっていったの」
「一目ぼれか」
「そう。ある日、嬉しそうに報告してきたの。
めっちゃ可愛い子がいるって。その子と仲良くなりたいって」
あんな颯太を初めて見た。それまで他の女子になんて興味を見せたことなんかなかったのに。
「私はほとんど話した事もない子だったから、あんまり力になれなかったかな。でも颯太は友達多かったし行動力もあったから、気が付いたらその子と仲良くなってたの」
ほんとにいつの間にか仲良くなっていた。
私なんか何にも出来ないくらいに。
「そこからかな。だんだん一緒にいる時間が減ってきたのは。一緒に帰る回数も減ってきて、一緒に遊びに行くのも少なくなって。気が付いたら2人でいる事はほとんど無くなってた」
予定を聞いてもはぐらかされたり、忙しいからと断られたりし始めたのもこの頃だっけ。
もちろん私にも友達は居たから1人になる事はなかったけど、颯太とは一緒に居る事は無くなった。
「毎年ね、お互いの誕生日は一緒にお祝いしてたの。誕生日会みたいな感じで。私の方が早かったから中2の時も颯太は当日にお祝いしてくれたんだ。颯太の誕生日も一緒にお祝いしようって約束したの。でも。。。颯太の誕生日を私が当日にお祝いする事はできなかった」
初めてだった。颯太の誕生日に一緒に居る事ができなかったのは。本当に信じられなかった。
そんな日が来るなんて思ってもなかったから。
「誕生日の翌日にね、颯太に言われたの。
彼女が出来たって。一目ぼれした子と付き合うことになったんだって」
颯太は嬉しそうに伝えてきた。その時初めて知ったの。颯太が誕生日に誰といたのか。何で当日に私がお祝いできなかったのかを。
「そこから私が颯太と一緒に居ることはほとんどなかった。彼女と毎日の様に一緒に帰っていたし。よく颯太の家にも遊びに行ってたみたいだから」
あの時は突然居場所を奪われた様な気持ちになった。颯太と一緒に居る彼女を見て何でそこに居るのが私じゃないんだろうって。
「それでも颯太とはたまに一緒に居る事もあったんだ。まぁだいたい颯太が彼女に会えない時だったんだけどね」
「それだけ聞くと。。。ダメ男みたいだな」
「ふふっ。私もそう思う」
今、確実に言い淀んだ。少し笑ってしまう。
言葉を選んでくれたのは優しさからかな。
今考えると彼女に会えないからって、別の女に会うとか本当に最低だと思う。でもあの時はそれでも嬉しかった。颯太に必要とされている気がして。多分、颯太にはそんなつもりは無かったんだろうけどね。
「中3になって進路を決める時に颯太から私と同じ高校を受験するって聞いたの」
「彼女とは別の高校に?」
「そう。彼女の方が成績良かったみたいで。高校は別々になりそうって言ってた」
あの時は嬉しかったな。颯太と同じ高校に行けるって。本当に嬉しかった。
「でも気が付いたら彼女と同じ高校を受ける事にしてたの。彼女にお願いされたから頑張るんだって」
「まぁそれが普通なのかもな」
「うん。私もそう思う」
それでも私は颯太から何一つ相談されなかった事が悲しかった。話してくれたのは私と違う高校を受けると決めた後だった。そして頑張ろうとする颯太を素直に応援出来なかった自分が本当に嫌になった。
「それでこの春から初めて、颯太とは別の学校になったの。ずっと一緒だったから凄い変な感じがするんだ」
中学を卒業してから颯太に会うことはほとんどなかった。毎日彼女と会ってたみたいで、卒業したら一緒に遊びに行こうって話もいつの間にか無かった事にされていた。たまに家の近くで会っても少し話をするだけ。
高校に入学してもそれは変わらなかった。
「それで今日は颯太と遊びに行く予定だったんだ。久しぶりに2人で会えると思って凄いうれしかったの」
今日は颯太から誘ってきたのだ。次の休みに映画に行こうって。私は久しぶりに颯太から誘ってくれた事が嬉しかった。
でも知ってるんだ。見たい映画が彼女の好みじゃないから断られるのが嫌で私を誘った事を。それでも本当に嬉しかったのに。
「なのに当日、彼女と会うから無理になったて言われて。。。」
ここまで話して私は悲しくなってきた。
やっぱり私が選ばれる事はないんだって。
「なるほど。それで履き慣れないサンダルのせいで靴擦れして、ここに居たってわけか」
「うん。そのまま帰るのが嫌でこの辺まで歩いたら靴擦れして、ここで休んでたんだけど何だか悲しくなって泣いちゃった」
私はこれまで言えなかった事を吐き出した。
ずっと自分の中に燻っていた思いを。
実は私にはもう1人幼馴染がいる。
でも彼女は颯太の事をあまりよく思ってない。
中学生になってからは良くないどころか嫌っている。
だから彼女にもここまで自分の思いを伝えたことがなかった。言えば絶対に颯太の事を悪く言うから。颯太の事を悪く言われるのも、彼女が颯太の事を悪く言うのも聞きたくなくて言えなかった。
そんな思いを今日初めて会った彼に話した。
「どう?言いたい事を言ってみた感想は?」
「わかんない。すっきりした気もするし、
ただ悲しくなっただけの気もするし」
「まぁそんなもんだと思う」
「なにそれ。言いたい事は言った方が良いって言ってたじゃん」
「言ったな。でも解決するとも言ってない」
彼は肩をすくめながらそんな事を言うのだ。
確かにそうだ。彼は解決するなんて言ってなかった。
「何か騙された気分なんだけど」
「騙してはない。話しながら自分がどんな気持ちだったかちゃんと確認できただろ?」
「それは確かにそうだけど」
確かに話しながら私は、私がどう思っていたか確認できた。何が嬉しかったのか。何が悲しかったのか。何が嫌だったのかを。あの時、どんな気持ちだったのか改めて考える事ができた。
「なら大丈夫。自分の事をちゃんと分かっている証拠だよ」
「自分の事を分かっている証拠?」
「そう。それで分かったらこれからは嫌だった事や、悲しかった事を無くして行けばいい」
「そんな事できるの?」
「自分の事をちゃんと分かってれば出来る。その為に自分の事を話したんだから」
何となく彼が言いたい事が分かった気がする。
「そう考えたら話して良かったって思えるかも」
「それはよかった」
うん!何だか少しだけ前向きになれた気がする。何も解決してないけど、それでも彼に話して良かったな。そんな事を考えていると彼が
「それじゃあ手始めに悲しい事を1つ無くしに行くか」
そんな事を言いながら立ち上がり私に手を差し伸べてくる。悲しい事を無くしに行く?
何をするのか何処へ行くのか全く分からなかったが、彼の真っ直ぐな目をみていると断る事など出来なくて、私は戸惑いながらもその手を取って立ち上がっていた。
「じゃあ行こうか」
そう言って彼は私の手を引きながら歩き出したのだ。
===================
新作になります。
完結目指して頑張ります。
連載中の他作品になります。
良かったら読んでください。
https://kakuyomu.jp/works/16818792436529928645
ブックマーク、いいね、コメントしてもらえると嬉しいです。
宜しくお願いします!
=====================
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます