24 爪先

 膝を抱えて座っていると、足の少し先に影があるのが見えた。なんとなくつんつんと、つま先でその影をつつく。

 顔を上げるとその場所にはセミがいた。いつだかと同じように網戸にしがみついている。

 今日は鳴いていない。もしかするとメスなのかもしれない。

 セミが移動すると、当然影も移動する。影の移動に合わせて、つま先も移動させる。何か楽しくなってきた。

「何してるの?弓ちゃん」

「影と戯れてる」

「楽しいの?」

「良く分かんないけど楽しいね」

「そっかー」

 夕子さんの声は、笑っているようにも、呆れているようにも聞こえる。

 つんつんと影を追いかける遊びは、セミが静かなまま飛び去って行くまで続いた。

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