第4話 嫉妬

1ヶ月後に私は、母校の教鞭を取り始めた。小さな村だから子供は少ないので、小中学校一貫となっていた。小学生が学年関係なく一部屋、中学生も学年関係なく一部屋で、母は小学生私は中学生を担当した。と言っても3人しか居ないクラスだから負担はない。


学校が終わると母は夕飯の支度の為に先に帰り私は戸締りをしてから帰宅する。


学校内を戸締りの為に巡回していると音楽室でピアノの横に佇んでいる人が目に入った。


「申し訳ありません。戸締りをするので、出て頂けますか?」


ゆっくりと此方に振り返った顔は奈緒だった。


「帰村の宴以来、久しぶりだね。柚月。元気だった?」


私は宴の翌朝、和哉と奈緒のやり取りを思い出した。

私が記憶を手繰り寄せ、返答をせずにいたら奈緒が続けた。


「私、初めて和哉に会ってからずっと好きだった。何で柚月なの?柚月は光輝が好きなんでしょ。だったら村から出て行ってくれない?それで光輝と結婚すれば良いじゃない!」


奈緒は徐々に顔を歪めていった。初めて見る恐ろしい表情に、ただ恐怖しか感じずにいた。

だから奈緒の言葉の違和感に気が付かなかった。


「私と光輝はそんなんじゃ無い。」


やっと絞り出した言葉だった。

でも奈緒には届かなかった。


「嘘言ってんじゃないわよ!デートしていたのも知っているだからね!」


「食事は何度かしたけど、デートじゃないわ。近況報告をしあっていただけよ。」


奈緒は頭を抱えながら首を大きく左右に振った。


「違う!違う!違う!あんたは、光輝が好きなんだよ!私に和哉を返せ!」


暗闇に光奈緒の瞳は狂気を帯びていて怖くて身動きが取れなくなった。もう声をあげる事も出来ない。


「何しているの。奈緒。」


冷たい表情の和哉が私の後ろに立っていた。奈緒の表情は打って変わって柔らかくなった。


「和哉。会いに来てくれたの。」


奈緒は手を伸ばしながらゆっくりと此方へ近づいて来た。先程の奈緒の顔が頭から離れずにいた私は恐怖で震えるばかりで動けない。

和哉は後ろからそっと私の腰を抱いた。


「奈緒、止まれ。」


奈緒は、歩みを止めた。


「奈緒、俺の声、届くか?」


奈緒は無表情になり、はい。と応えた。


「帰れ。」

「はい。主人様。」


奈緒は虚ろな瞳で私も和哉も全く見ずにそのまま教室から出て行った。

和哉は私を抱きしめたまま肩に頭を預けた。


「間に合って良かった。」


その言葉を聞くと全身の力がスッと抜けた。


「眠りなさい。」


和哉の言葉に私は意識を手放した。

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