第19話 Wデート?

「変じゃないかな?」

「大丈夫!もりーはかわいい!」

 待宵駅のトイレの鏡で、私たちは服や髪の最終チェックを行っていた。

 ひかるはスウェット生地の、ユニセックスで着れそうなセットアップ。半袖半パンのゆるっとしたホワイト系の色味の服に濃い色のキャップをかぶり、短いソックスと、動きやすいスニーカーを合わせている。スポーティーな黒のバッグも含め、ファッションスナップにでてきそうだった。私が着たら部屋着に見えそうでも、堂々としているひかるが着たらとても似合っていた。

 対して私は濃い色のゆるっとしたパンツに白のTシャツ、淡い色のゆったりとした透け感の長袖カーディガンをロールアップして羽織っていた。

 キャップはひかると色違いだ。

 手持ちの中で唯一お出かけに耐えうる黒の斜め掛けカバンには、財布、スマホ、汗をかいたときのケア用品など、ぱんぱんになる一歩手前に荷物を詰め込んでいた。これでも減らしたが、ひかると落ち合ったときには荷物を持ち過ぎだと軽く怒られた。

 ひかるに言わせると、私が大人っぽいコーデで、ひかるはカジュアルアクティブコーデ、らしい。

「トイレ行ったし、日焼け止めと色付きリップも塗った!もう行けるやん」

「あ、でもここからまた移動するかもしれないから、チャージしないと……」

「改札入るのはいけるんやから、出るとき清算したらいいよ!それくらい待ってくれるやろ」

 ひかるは黒いバックから、スマホを取り出した。

「やっば、そろそろ時間やん!遅れたらしゃれにならへんから、行こ!」

「え、まだ心の準備が」

「ほーら一緒に行くから!きつね前やっけ?」

 ひかるはスマホをしまい、私の手を引っぱってずんずん進んだ。

 待宵駅は、各停やそれ以外の電車も止まる駅だ。バスターミナルも近くにあり、乗降者は多い。

 ただ、私たちがトイレにそれなりの時間いたからか、改札はすっと出ることができた。

 待ち合わせは、待宵駅構内にある「待宵きつね像」前と指定されていた。

 150センチほどのきつねの置物は、待宵駅改札外にあり、駅コンコースの柱に沿って設置されている。

 私たちの親世代が子供のころからすでにいたらしく、「待宵のきつね」と言ったらすぐに伝わる。そのため、地元民の待ち合わせ場所としてよく目印になっていた。

 今日もきつねの周りには、人待ち顔が片手で足りないほど立っている。

 私はついつい、目線を下に落としてしまった。

「もりー、見つけるのはよろしく~」

 私しか清水さんの顔を知らない。知っている人と目が合うかもしれない。同級生がいるかもしれない。けれど私はここにいる人の顔を確認しないといけない。

 そうしないと前に進めないから。

 不安が表に出ていたのか、ひかるが手をぎゅっと握ってくれる。軽く握り返して、意を決して、私はすばやく目線を動かす。

 ――ひかるが来てくれて助かった。清水先生の件を打ち明けたのはひかるだけだったから、来れないとなるとついてきてもらう人がいなくなる。

『動ける服で』と指定もされて、右も左もわからなかった私のコーディネートを考えてくれたのもありがたかった。

 それだけじゃない。待宵駅に現地集合でもよかったのに、というかひかるからしたらそちらのほうが楽なのに、私の最寄り駅まで来てくれて、一緒に電車に乗ってくれた。

 たくさんのものをもらっている。たくさん助けてもらっている。

 だから私は私にできることを精いっぱいやらなくちゃ。

「ねえねえ、そこの二人~」

 私たちは振り返った。

 知らない男の人が二人立っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る