第10話 帰ってこないミルメル

 ミルメルが森に入ったかもしれない。


 一週間待って、領地の使用人にミルメルが戻ったら、部屋に監禁するように命令して、王都に戻ってきた。


 学校をこれ以上、休むわけにはいかない。


 お父様も仕事がある。


 マクシモム王太子は、祭りの翌日に帰って行った。


 本来なら、祭りの翌日にマクシモム王太子と共に王都に戻る予定だったのを、一週間も待っていたのだ。


 無駄な時間ばかりが過ぎていきます。


 いい加減、頭に来て、お父様に、「先に帰らせていただきます」と言いましたら、お父様はわたくしより激怒しておりました。


 ミルメルが戻ってきたら、お父様は修道院に入れると叫んでおります。


 わたくしとしては、聖魔法をかけて闇属性の闇を浄化したらミルメルの体がどうなるのか試してみたいのですが。


 ミルメルが戻ってきたら、お父様にお願いしてみましょう。


 学校は3年生ですので、あと一年も待たずに卒業式ですが、お父様は、仕方なく休学届を出しておりました。

 ですが、さすがに二ヶ月も経ちますと生きている方が奇跡ですわね。


 貴族の学校はそれなりに学費がかかりますので、お父様は退学届を出しました。


 どんなに経っても、ミルメルは戻ってきません。


『森で死んだか』と最近、お父様が言うようになりました。


 花馬車に乗れず、舞が舞えなかったくらいで、何も持たずに家出をするなど、馬鹿がすることです。


 学校でも、ミルメルが行方不明だと騒がれています。


 国王陛下から森を捜索しなかった事を叱られたと、お父様がお怒りになっていました。


 祭りの翌日、村人が集まり山に捜索に出掛けるか相談にやって来ましたが、お父様は危険だからと、捜索はしませんでした。


 村人に何かあれば、ミルメルがいなくなるより面倒ごとが起きると判断したようです。


 要らない娘のために、村人を危険な目に遭わせることはできないと、村人の前で言ってしまったのです。


 要らない娘は余計だったような気がしますが、お父様が日頃から、ミルメルに対して思っている言葉が、それだったのでしょう。


 村人は捜索することを止めて、普段の生活に戻って行きました。


 それにしても、ミルメルは本当に死んだのかしら?


『双子だから、何か感じる物はないか?』とよく聞かれますが、わたくしとミルメルは、それほど仲がいいわけでもなく、交流もなかったので、双子と言われても、あまり実感が湧きません。


 ただ、鏡を見ているような顔がなくなり、どこかスッキリとした気持ちがあります。


 わたくしは、心からミルメルの事を好きではなかったと理解しました。


 お父様もお母様もお兄様も、ミルメルの事はもう死んだ子だと思っているようです。


 けれど、葬儀などは挙げていません。


 それにかけるお金さえ、勿体ないとお父様が言います。


 当然、墓場など作るはずもなく、最初からいないものと扱うようです。


 ミルメルの部屋は、元々、物置部屋のような小さな部屋だったのですが、そこもとうとう本物の物置部屋になってしまったようです。


 ミルメルの私物は、使用人が捨てております。


 ドレスも古い物が多いので、使用人に欲しければ、持って行けとお父様が言っておりました。


 小遣いは貯めていたようで、それはお父様が、受け取り、物は使用人の自由にさせているようです。


 本や勉強道具は学校に寄付したようです。


 もし、帰ってきたら、自分の持ち物が全てなくなり、呆然とするでしょう。


 自死はお家の恥になりますが、ミルメルが闇属性だと知らぬ者はいないので、誰も同情は致しません。


『やっと厄介者がいなくなり、よかったですね』等と言ってくる者は多くおりますが、慰める者はいません。


 ただ、マクシモム王太子はミルメルが自死して、心を傷めたようで、お茶会や舞踏会を欠席しております。


 わたくしの婚約者なのに、わたくしより、妹の事で心を傷めるなど、将来の夫として、少々情けなさを感じますわね。


 ミルメルよりもわたくしを一番に考えていただきたいわ。


 ミルメルがいなくなり、学校のテストは、手抜きができるようになりました。


 わたくしの後を追いかけるように、毎回、二位を取っていたミルメルでしたが、ちょっと油断をすると、一位の座を奪われそうで、わたくしは意地になり勉強を頑張っておりましたが、ミルメルがいなくなり、一位と二位の差が大きくなりました。


 適当に勉強していれば、一位を取る事が簡単になりました。


 世の中、意外に簡単に上手くいくようになっているのかしら。


 ミルメルがいなくなり、わたくしはとても生きやすくなりましたわ。


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