飽き性の殿様に、ささやかな復讐を
昔々、或る国に飽き性の殿様がいた。彼には十人ほどの家来がおり、平和に暮らしていたが、殿様の飽き性により時々騒ぎが起きた。
殿様は、家来が言うことに従うことを退屈だと感じた。時には自分のために反論してくれるという意味で忠実な家来が欲しかった。
そこで、国中から体力があり頭が良い者を集めろという命令を下した。
その中からさらに家来が選別して、三人の者がそれぞれ殿様と面会した。
面会の結果、殿様は最後に面会した者を選んだ。彼の名は、真吉というそうだ。
「多くの者の中から拙者を選んで下さり、有難き幸せにござりまする。殿様は、拙者に何をお望みですか」
その直後、彼はなにやらごにょごにょと付け加えた。
殿様は何だか、天にも昇るような気持ちになった。なぜか分からないが。
「そなたは、わしの右腕となって働いてくれ」
真吉は、口角を吊り上げて笑った。が、伏せたままなので殿様には見えなかった。
「はっ、殿様の右腕となって働かせていただきます」
それを言い終わるか終わらないかのうちに、彼は下を向いて少し何かを唱えた後、手を静かに上げて振り下ろした。直接触れたわけでも、刀を投げたのでもなく、殿様の右腕がスパッと切れた。
そう、それは一瞬にして起きた魔法のような出来事であった。切り口から、真っ赤な血飛沫が飛び、上座に敷かれた真っ白で美しい織物に染みこんだ。
口をパクパクさせる殿様を真吉は一瞥し、一瞬消えたかと思うと殿様に新しい腕が生えた。
そして、その右腕は殿様の意思に逆らって動き、なぞるようにして殿様の右腕であったものを消した。同時に、染みこんだはずの血も綺麗に消えた。
「フフッ、殿様の右腕となって働かせていただきますね」
勝ち誇ったような声が聞こえた。
状況を理解し始めた殿様は、
「おい真吉、腕を戻してくれ! 右腕となって働け、は言葉の綾にきまってるだろう! 何を考えているのだ!」
と、どこか縋るように叫んだが、家来に人払いさせたため誰も来ない。
「もう遅いですよ。私は、あなたが飽きたからって追い出された側室の’マキョウ’。……’魔凶’となって、戻って来たわ」
どこか凄みのある声で、マキョウは宣言した。
それから後、彼は自分の意思に逆らう右手に大変苦労したとか。助けを求めようにも、マキョウに口を塞がれてしまい、気味悪がられるとか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます