儀式を妨害しろ
ニクスが鍵を取り出し、ルナを閉じ込めていた牢屋の扉を開けた。転がり出てきたルナが、外に置いてあった彼女のマギを手にしてポーズを決める。
「さあいくわよケレス、儀式の場所に案内してちょうだい!」
えっ、そういえばどこで儀式やってるのか知らない。マーズさんに聞けば教えてもらえるだろうけど。
「私もご一緒させてください! 一刻も早くイオ様を救い出さなければ!」
そしてニクスが同行を申し出る。相手は悪い魔法使いと騙されてるステラ持ちのイオだけど、大丈夫?
「戦えるの?」
「元々ルナ様付きの執事ですから、魔法の心得はあります!」
そういうもん? ルナがニクスにも魔法を教えてたとかかな。まあ戦力が増えるに越したことはないけど。あと儀式の場所も知ってそう。
「じゃあ一緒にいこう」
「はい、イオ様が儀式を行なっている場所まで私がご案内いたします」
そう言って駆け出すニクスについていくルナ。いやちょっと待って、マーズさんにも来てもらった方がよくない?
「あ、ちょっと!」
「早くいくわよ!」
「急ぎましょう!」
制止しようとしたけど、二人は俺を急かした。確かに急がないと間に合わないかもしれないし……三人でかかればいけるか?
必要なら全てお見通しのマーズさんも助けに来てくれるだろうという楽観的な結論を出し、二人の後を追うのだった。
◇◆◇
ニクスに案内され、浮遊遺跡が浮かぶ湖の畔にある祭壇にやってきた。イオとカロンが何かやってるのが遠目にもわかる。
「いた!」
ルナが猛スピードで走り寄る。でもあの祭壇、なんか魔力のバリア的なもので囲われてるように見えるんだけど。
バシーン!
「ふぎゃっ!」
案の定、ルナは魔力の壁にぶつかって弾き飛ばされた。たぶんこれも『アルファルド』の力で作られたものだろう。ステラにはやはりステラでしか対抗できないのだろうか。
「ぐぬぬ、こんのぉっ!」
ルナがいきなり魔法のビームを発射した。たぶん彼女の最強魔法だけど、それも魔力の壁に阻まれてしまった。それにしても外でルナが大騒ぎしているのに儀式をしているイオとカロンは気付いた様子もない。音や振動が届かない仕組みかな?
「あんた達も手伝いなさい!」
ルナに言われて俺は光の剣、ニクスはなにやら黒い球状の魔法弾を出して魔力壁を攻撃した。もちろんどちらも弾かれた。
「どうすればいいんだ。やっぱりマーズさんを呼んでくる必要があるんじゃないかな」
「おのれ……イオのくせに生意気よ!」
「ステラの力は強大ですからね。ですがステラの魔力も無尽蔵ではありませんし、『アルファルド』はステラの中でも平均的な力しかありません。対抗する手段はあるはずです」
魔力の壁を突破する方法が思いつかず、三人で騒いでいると祭壇の方で動きがあった。どうやら儀式はもう最終段階らしい。
「これで浮遊遺跡の封印が解けますわね。少々疲れてしまいました」
あれっ、声聞こえるの? 中からだけ聞こえるようにする意味はたぶんないから、俺達が騒いでいても反応してる余裕がなかっただけなのか、それとも集中しすぎて聞こえていなかったのかもしれない。
「そうですね、儀式は完成しました。まもなくあの遺跡までつながる転移門が生成されます……これでお前は用済みだ」
カロンが淡々と喋っていたかと思うと、突然すばやい動きでイオから『アルファルド』を奪い取った。何が起こったのか分からず「えっ?」とだけ口にして呆然とするイオに、カロンは瞬間移動のような速さで距離を取り『アルファルド』を向けた。
カロンが『アルファルド』を奪った瞬間、祭壇の周りを覆っていた魔力の壁が消える。イオが『アルファルド』を使って生み出していたのだろう。状況的にカロンがイオを攻撃しようとしていることは明白だった。
「なにボーッとしてんのよ、イオ!」
次の瞬間、カロンの『アルファルド』から放たれた魔力の奔流を一気に距離を詰めた俺とルナが強化したシールドで防ぐ。さすがにステラの魔力は二人がかりでも完全に防ぐのは難しい。すぐに押されるが、同時にニクスがイオを抱えてその場から連れ出したので俺達も攻撃線上から離れて事なきを得た。
「これはこれは、王子殿下とルナ様ではないですか。まったく、お二人はそのご年齢でも優秀ですなあ。おかげで私の目的が達成されます。本当にありがとうございました」
カロンがニヤニヤと笑いながら祭壇の位置に戻り、俺達に勝ち誇った表情を向けてくる。恐らくあの位置に転移門が出てくるんだろう。たぶんそれを使って遺跡に移動したらこいつは門を閉じる。阻止しなくちゃいけないのに、カロンが『アルファルド』を手にしているせいで阻止できる気がしない。
「カロン! 昔から嫌な奴だと思ってたけど、思っていた以上のクズだったわね」
「あなたは自分の感覚に頼りすぎなんですよ、公女様。もっと頭を使って生きていれば、殿下との婚約が破談になることも家出をすることもなかったでしょうに。まあ、十歳の娘さんにしてはかなり賢い方でしたけどね」
ルナの言葉に嫌らしい笑みを浮かべてカロンが答えると、ニクスに抱えられて呆然としていたイオがビクリと身体を震わせる。
「カロン……私を騙していましたの?」
「騙すなんてとんでもない。私が貴女に嘘を教えたことは一度もありませんよ、イオ様。ただお姉様のような魔法の才も無く頭の回転も遅い凡人の貴女は、たいそう利用しやすかった。それだけのことです」
カロンはイオに対して侮蔑の眼差しを向けた。その視線が意味するところを察したのだろう、イオの目から大粒の涙が零れた。なんて胸糞の悪いヤローだ、こいつ!
「そんな……もしやお姉様の婚約が破棄されて私がマケマケ公爵家の次期当主となったのは貴方が裏で手を回したのですか?」
いや、それは違うってマーズさんが……まあ、もうどっちでもいいけど。
「……決めたのは貴女のお父様と国王陛下ですよ」
お前もなんでそこで含みのある返事をしてるんだ。自分は関係ないって言っとけよ。
「やっぱりカロンが全ての元凶だったのね、許さん!」
「筆頭執事がそんなことをしていたなんて、ルナ様付きの私もまんまと騙されてしまいました」
ほらー、勝手に勘違いしてなんか闘志燃やしちゃってるじゃん。もう目的を果たせそうなカロンからすればどうでもいいんだろうけどさ。俺もどうでもいい。
「そういえばお前が雇ってたゴロツキはどうなったんだ?」
下手に攻撃したら反撃で死にそうなので、マケマケ公爵家の内部事情にも興味ないからちょっと気になっていたことを聞いてみる。あれから姿を見てないけど、どうしたのだろうか。もしかして口封じに消したとか?
「それはもちろん、用が済んだからその辺の海に捨てましたよ。今頃サメの腹の中にでもいるんじゃないですか? あんなゴミに意識を向けるとは、殿下はお優しいですなあ」
カロンはクックッと喉で笑って肩をすくませた。わあ、純度百パーセントの悪党だ。俺もあんなやつらどうなろうが知ったことないけどさ。自分の役に立った人間にぐらい優しくしてやろうとか思わないわけ?
そんな話をしていると、カロンの背後に空間の裂け目みたいなのが出てきた。これが転移門か、正規の手段で作った道なのになんだか禍々しいのはなんでだ?
「そろそろ時間のようだ。これで失礼するよ。『アルファルド』、こいつらを始末しておけ」
カロンが杖を振ると、俺達の前に巨大な青い蛇のようなものが現れた。ところどころにヒレらしきものが見えるけど、これってウミヘビかな? 最近聞いた覚えがある単語だけど、どこで聞いたんだっけ。
『ギシャアアア!』
暫定ウミヘビが俺達を威嚇してくる。俺とルナは戦闘態勢を取り、ニクスはイオを守って彼女の前に立つ。
その間にカロンは転移門の中に消え、思った通りに転移門は閉じてしまった。だがウミヘビは消えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます