前世の記憶と漁夫の利
「今日もあの子のお墓参りに行ってきたの?」
母親の声が聞こえる。これは現世ではない、前世の母親だ。
「ああ、今度係長に昇任するからその報告にね」
係長……現場のまとめ役みたいなものだ。俺は地元のあまり大きくない会社に就職したけど、身の丈にあった選択は正解だったようで、毎日が充実していた。恋人はいないけどまだ焦るような年齢でもない。
「母さんはね、あなたに自由になって欲しいと思っているのよ」
自由? いったい何を言っているのだろう。俺は誰かから強制されてこの人生を選んだのではない。自分で、悩んだり挑戦したり諦めたりしてつかみ取ってきた人生だ。世間一般で言うところの勝ち組とやらではないかもしれないけど、十分に幸せな人生を送っている。
「俺は自由に生きてると思うけど。父さんだってまだ現役でしょ」
両親とは同居していない。一人暮らしだけど近くに住んでいるのでこうやってちょくちょく顔を出している。仕送りはしているけど、お小遣い程度の金額だ。親の生活費を負担するような関係でもない。
「そうではなくて、あなたはずっと■■■が生きていたらって思っているでしょう」
なんだろう、母さんは妹の名前を口にしたのに、それが聞き取れない。そして、思い出してしまう。この先の運命を。俺はこの後交通事故で死亡し、この母親と父親は俺と妹、二人の子を失ってしまうのだ。
ドクン。
夢を見ているはずなのに、心臓が強く拍動するのを感じた。
――ごめんなさい。
これは自分の声だ。自分の口からは発していないのに、確かにどこかから声が生まれてくる。
ドクン。
また心臓が暴れる。胸が苦しい。でも、この苦しさは心臓由来の苦しさではなかった。今なら分かる。そうだ、これは――罪悪感。
◇◆◇
「はっ!?」
目が覚めると、俺はヒドラ遺跡の観察小屋にいた。
「いけないいけない、つい居眠りをしてしまった……あれっ?」
なんだか外が騒がしい。気付かれたのかと思ったけど、そのわりには俺のところにオルクス族がやってくる気配も感じられなかった。
「なんだろう? オルクス族が祭りでも始めたのかな」
観察窓からオルクス族の様子を覗いてみる。すると、眼下では思いもよらない修羅場が繰り広げられていた。
「カミノテキ、ハイジョ!」
「カエレ! コノサキニハ、イカセナイ」
オルクス族は俺ではない相手と戦っていた。その相手は誰だろうと視線を向けると、そこにいたのは入口で見た強者感あふれるトレジャーハンターのコンビだ。
「まったく、鬱陶しいったらありゃしない。弱い者いじめをしたくてきたんじゃないのに」
「降りかかる火の粉は払わねばなるまいよ」
「「ファイアーストーム!!」」
二人が同時に同じ呪文を唱え杖のようなマギを振りかざすと、猛烈な炎の嵐が吹き荒れた。ヤバい。思った通りにあの二人は相当な強さだ。
どうしよう、俺はこの状況で何をすればいい? 加勢する? どっちに?
同業者のよしみでトレジャーハンターに加勢しても、宝を奪い合うライバルを利するだけだ。それにどう見てもあの二人が押している。加勢の必要なんかまったくない。
じゃあオルクス族に加勢? そりゃここは彼等の土地だし、侵入者であるトレジャーハンターを追い払うのは正義に則った行為だと言える。でもそれを言ったら俺も侵入者だし、そもそも異種族であるオルクス族と共闘なんてできるのか?
そんなわけでどちらかに加勢するのはナシだな。ならば俺が取るべき行動は……
「ズルするようで気が引けるけど、この状況を利用して先に行かせてもらおう」
トレジャーハントは早いもの勝ちだ。協力者でもない奴らに気兼ねする必要はない。オルクス族だって、ちゃんと話を聞いてくれればこちらから危害を加えることなんかないんだし、ある意味自業自得だよね。
漁夫の利だったっけ、こういう状況を表す前世の言葉。とにかく俺は騒ぎに乗じて遺跡の仕掛けを解いていくことにした。
「これが例の時間制限がある仕掛けか」
そんなわけで、苦も無く最初の目的地に到着した。まあ、ここから誰も突破したことのない遺跡の仕掛けを解いていくわけで。やっとスタートラインに立てたってところかな?
何はともあれ、レバーを引いてみる。耳を澄まして音を聞くと、確かにゴゴゴと何かが動く音がした。
「音がしたのは……あれっ、もしかしてさっきの観察小屋か?」
たまたまそこから来たので音のでどころに見当がついた。普通にオルクス族を蹴散らして進んでいたら絶対にたどり着かない場所だ。逃げ回ったのが功を奏したか?
時間との勝負だ。ここは魔力で身体強化をして全速力でさっきの場所に戻る。オルクス族は相変わらずトレジャーハンター達と戦っているみたいだ。ライバルの足止め、ご苦労さん。
「あった!」
観察小屋に戻ってくると、そこには先ほどは見当たらなかった謎のゴンドラが樹上から吊り下げられている。これに乗れば次に進めそうだ。
乗り込むと、ゴンドラはギュイーンと機械的な音を立てながら上に進んだ。また自然物と見せかけた機械仕掛けか。遺跡って実はハイテクなのか?
そんなことを考えているうちに、俺はゴンドラに運ばれて木の上に広がる謎の空中ステージにやってきた。なんだろう、何もないように見えるけど……?
「ギャッギャッギャ」
耳障りな声がした。猿かなにかだろうか。ここでボス戦かよ。ちょっと心の準備ができていないんだけど!
空中ステージに下から這い上がってきたのは三匹の猿だ。今度は三対一の戦いか? もう不安でいっぱいだぞ。
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