初めての魔法
ステラを探すといっても、あてもなく旅していたら三年間なんてあっという間に過ぎてしまうだろう。時間を無駄に使うわけにはいかない。
だが困ったことに未経験のトレジャーハンターにはステラが隠されている遺跡の情報を知ることができない。ベテランのトレジャーハンター達は独自の情報網を持っていて、名が売れると情報が入ってくるらしい。
となると、やることは一つだ。手頃な遺跡を探索して実績を積んでいくしかないだろう。まあ、急がば回れとも言うからな……この世界に該当することわざはあるのかな?
そんなわけで俺はヘルクロス王国から出て隣のブレイニア共和国にやってきた。国内だと身分を隠してもすぐに正体がバレてしまうし、めぼしい遺跡は調査が終わっているからな。乗合馬車に揺られて数日の旅を終え、ついに国境を越えると目の前には大きな草原が広がっている。頬を撫でる爽やかな風が門出を祝福しているかのようだ。
「さて、トレジャーハンターとして遺跡デビューを果たす前にちょっと自分の強さを確認しておこうかな」
自信満々にステラを探すなんて言ってしまったが、俺には戦闘経験がない。当たり前だが前世で何かと戦ったことなんてないし、十歳の王子が稽古以外で剣や魔法を使ったことなんてあるはずもない。
そんなわけで、その辺にいる手頃なモンスターでもしばいて戦闘に慣れておこうと思い大草原のど真ん中に降ろしてもらったわけだ。といっても目的の町は子供の足でも歩いて三十分ぐらいのところにある。俺は後先を考えられる男なのだ。
「スライム的なモンスターでもいないかな……」
キョロキョロと周囲を見回しながら歩く。ちょっと見通しが良すぎて、草むらに隠れているモンスターなんかいそうもないのだけど、大丈夫かな。一応、御者の人はこの辺に雑魚モンスターがいるって言っていたし、どこかにはいるはずなんだけど。
「ピピッ!」
「見つけた!」
適当にぶらついていると、草の間から小さなモンスターが現れた。外見的にはボールのような丸くて白い身体に角が一本生えている。どうやって動くのかと思ったら、宙に浮いて飛んできた。魔法生物だろうか。見るからに弱そうだ。初めて戦う相手としてはちょうど良い。
「舐めるなよ、ファイア!」
俺は王宮での勉強を思い出し、じいやが持たせてくれた王家のマギをモンスターに向ける。
マギってのは魔法を使うための触媒だ。よくファンタジー作品で魔法使いが杖を向けたりする、あれの役割を果たすやつ。
この王家のマギは手袋の甲の部分に赤い宝石が埋め込まれていて、それが持ち主の魔力を増幅してくれる仕組みになっている。
俺の唱えた呪文に反応して、バスケットボールぐらいの大きさをした火球が発射された。モンスターの身体より一回りぐらい大きい。
「ピギャア!」
「よし、仕留めたぞ」
火球がぶつかると、ボンッと鈍い音がして弾け、モンスターは断末魔の叫びを上げて地面に落ち、動かなくなった。うん、悪くないな。
「悪くないけど……あんまり強い気がしないな」
王家のマギは王族のために作られただけあってかなり強力だ。
そして魔法の威力は使い手の魔力とマギの性能のかけ合わせで変わるらしい。
つまりこの最高級のマギを使って撃った火球があの程度ということは、俺の現在の魔力は普通に子供レベルなのだろう。
「うーん、転生チートとかないのか?」
さすがに特別な才能もない十歳の子供がステラを見つけるのは無理があるのではないか。どうしよう……。
「あんた、魔法を使うのは初めて?」
マギを見つめ唸っていると、背後から女の子の声が聞こえた。鈴を転がすような声が耳に心地よく響く。俺は見られていたことに動揺しつつ、後ろを振り返った。
果たして、そこにいたのはヒラヒラとしたシルクのような服を風になびかせ、ピンク色の髪を頭の両側でまとめて垂らした――漫画やアニメでよく見たツインテールってやつだ――可愛らしい顔の女の子だった。少し弱めの風に揺られ微笑んでいるその姿は、さながら風の妖精のよう。
「あ、ええと……モンスターと戦うのは初めてだけど、魔法は先生に教わったんだ。でも僕にはあんまり才能がないみたいで」
一応は王子だから国内最高の師に教わっている。それなのにこの子には初めてだと思われてしまったということは、やっぱり俺の魔法はかなりしょっぱい威力だったんだろう。ちょっと落ち込むなぁ。
だが、女の子は俺の言葉を否定した。
「ん? つのまるを一発でやっつけたんだから、才能はあるでしょ。あんたに足りないのは才能じゃなくて経験よ」
そうなのか……才能が無いわけではないなら良かったけど、時間に余裕がないのに経験を積む必要があるのはちょっと困るかも。
「あれ、つのまるって言うんだ? 分かりやすいね」
「でしょ? あいつら弱いくせにやたら好戦的で、数も多いから魔法の練習にもってこいなんだよねー」
なるほど。言ってるそばから大量のつのまるが草の間から出てきた。俺が身構えると女の子は手で制しながら前に出る。
「まあ見てなさいよ」
自信満々な彼女が右腕を突き出してポーズを取ると、手首にはめた腕輪が淡く光る。あれがこの子のマギかー……とのんきに見ているうちに、その突き出した右拳から無数の光弾が発射されてつのまる達を次々と撃ち抜いていく。
「すごい……」
ズドドドドと豪快な音を立てながらつのまるを殲滅していく彼女は、まるで戦争映画で見た機関銃のようだ……って、あれ?
「そういえば、呪文を唱えてない!」
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