第18話 死を受け入れし者
「コマンダー…ごめん…なさい…」
ミアが瓦礫の山に座り込み、虚ろな目で呟いた。
彼女の左目の光は弱まり、リアの意識との激しいせめぎ合いで、彼女自身の精神も限界に達しているようだった。
「私のせいで…みんな…」
その時、俺の脳裏に、あの映像がフラッシュバックした。
ノイズまみれの監視カメラの映像。
異形に襲われる寸前の、もう一人の俺。
そして、床に叩きつけられたメモの一文。
『――自分の死を受け入れろ』
今まで、この言葉は「自決しろ」という絶望のメッセージだと思っていた。
だが、この世界そのものが消え去ろうとしている今、違う意味が浮かび上がってくる。
死から逃げるのではない。
殺されるのでもない。
このビルに渦巻く、無数の死の記録、繰り返される絶望、その運命そのものを、自ら引き受けるということではないのか…?
「コマンダー! 聞け!」
俺の思考を読んだかのように、紳士ルクスが叫んだ。
「このパージを止められるのは、このビルの記録の“特異点”である君だけだ! 君の血脈だけが、この暴走した記録を鎮めることができる!」
「どうしろって言うんだ!」
「思い出せ! 君が見た生存者の記録を! 彼は何をした!? 彼は死から逃げなかった! 運命に抗うのではなく、その中心へ飛び込んだんだ! “自分の死を受け入れろ”とは、そういう意味だ!」
紳士ルクスの言葉が、俺の直感を確信に変えた。
見渡すと、この監視室の中央、PCがあった場所の空間が激しく歪み、全てを吸い込む光の渦――このビルの記録のコア――が出現していた。
あれが、パージの中心地。
ゴウッ!
突然、床が大きく傾ぎ、足元が崩れ落ちた。
「きゃあ!」
バランスを崩したミアが、ノイズの奈落へと滑り落ちていく。
俺は咄嗟にその手を掴んだ。
「ミア!」
「…もう…いいよ…」
俺の腕にぶら下がりながら、ミアは力なく首を振った。
彼女の左目から、リアのものなのか、ミアのものなのか、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「私ごと…このビルと…消して…」
姉を救おうとした結果、全てを破壊してしまった少女の、悲痛な願いだった。
俺は歯を食いしばり、彼女の体を渾身の力で引き上げた。
そして、背後にいた紳士ルクスに向かって、その体を突き飛ばす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます