第8話 全てを奪う為に
梶原と墨田さんが争った。
朝はその事で胃が痛くなり俺は苦笑いを浮かべていた。
俺を巡って争うとは...。
それから俺は梶原と一緒に会社に来た。
墨田さんは俺達を心配げな感じで見送った。
そして俺はデスクに溜息混じりに来た。
「よお」
「ああ。佐藤か...」
「なんだお前。げっそりしてんぞ」
「いや。なんでもない。朝は辛いんだ」
「ああ。嫁さんの事か」
「い、いや。まあな」
嫁ではないのだが。
そう考えながら俺は苦笑いをまた浮かべる。
佐藤は溜息混じりに「大変だな。お前も」と言ってくる。
俺はその言葉に「ありがとうな。心配してくれて」と言う。
それから佐藤から視線を外してから書類を見る。
「そういやさ」
「ああ。どうした」
「なんか最近、梶原明るくね?」
「あー。確かにな...」
「なんだろうか?」
「気の所為だと思うぞ...」
その梶原が恋をしているのは俺だ。
だからまあ恋の為に明るくなったのであれば...まあその。
かなり恥ずいんだが。
そう考えながら俺は頬を掻いた。
全く俺みたいな奴のどこが良いんだか。
思いながら居ると佐藤がニヤニヤしていた。
「...住山も大変だな」
「お前な。浮気は駄目だろ」
「言ってもお前の場合は全てが破綻しているだろ」
「...確かにな」
「今更浮気だろうがなんだろうが。お前には関係無い話だしな。ありったけ楽しんだら良いんじゃないか?」
「...お前という奴は」
「真面目過ぎるぞ。お前」
確かにその通りではあるんだが。
でもまだ愛した女を取り返せる気がしている。
馬鹿だね俺も。
考えながら首を振った。
それから書類を見た。
☆
昼休みになって梶原がやって来た。
俺に対して「一緒に食べませんか」と言ってくる。
もう境目すらない。
苦笑いで「すまん。佐藤」と謝ってから梶原に付いて行く。
オフィスの中央付近にある緑公園。
その場所に来た。
「梶原?こんな場所に来てどうするんだ?」
「はい。まあ...オフィスじゃあまりいちゃいちゃ出来ないのでこの辺りなら、と思いまして」
「...あのな。俺は...」
「まあまあ」
それから梶原はお弁当箱を取り出す。
それはこの前とは違ったメニューだった。
俺は驚きながら「お前...また作ったのか?新しいのを」と言ってから梶原を見る。
梶原は「はい。また作りました。レシピ本を見ました」とニコニコする。
「...そんな面倒な事をしなくても...」
「面倒じゃないですよ。私が前も言った通り好き勝手にやってます」
「好き勝手とはいえ」
「...こんなに楽しいのは久しぶりなんです」
そう梶原は話す。
それから控えめに笑う。
そんな姿に「...梶原はどうしてそんなに俺が好きなんだ?」と聞いてみる。
すると梶原は「単純に貴方の良さに惹かれました。優しいし頼りになります。妻が居るのが落胆でしたけど私にもようやっとチャンスが巡って来ました」と言う。
確かにチャンスではあるかもだが。
だが。
「お前。もし俺がそういう事にならなかったらどうするつもりだったんだ
「その時は冷静におめでとうと言うつもりでした。私は...確かに最低ですが幸せな家族から幸せを奪う程最低ではないですよ」
「...」
「でも今は状況が違います。あくまで...先輩の家庭は破綻していますから。私が奪ってもなんら問題がありません」
「...確かにそうだが...」
「先輩を幸せにしたいだけです」
「...」
俺は力強いその眼差しに「...」と無言になる。
それから梶原を見てから空を見上げる。
梶原は「...先輩。先輩って本当に真面目ですね。そういう所も好きです」と俺を見る。
その事に俺は「...ありがとうな」と言う。
そして俺は前を向いた。
「...梶原が心底俺を好いているのが分かったよ」
「はい」
「...本当に俺は間違えたよ」
「間違えたなら修正すれば良いんです」
「...確かにな」
「修正テープみたいにはいかないかもですが」
「ああ」
それから俺達はご飯を食べ始める。
梶原が作ったのはハンバーグだったりした。
デミグラスソースをかけて乗っている。
まあ...本格的だ。
よっぽど練習したのだろうけど。
☆
私は先輩を見ながら紅潮する。
ますますこの人にのめり込みそうだ。
なんだか全身が疼く。
疼いて仕方がない。
「ホワイトデミグラスソースとか凄いな」
「頑張りました。美味しいですか?」
「ああ。美味しいよ。物凄くな」
「じゃあ先輩の奥さんとどっちが美味しいですか?」
むちゃくちゃな事を聞いている。
だけど私は聞きたい。
恐らく私の方が美味しいとは答えるだろうけど。
そう考えながら私は先輩を見る。
すると先輩は「間違いなくお前だな。...アイツは最後は冷食しか出さなかったから」と話した。
「...ですか」
「ああ。もう俺の事は放置な感じだったな」
「...最低ですね」
「仕方がない。勤しむのに必死だったんだろ」
先輩は皮肉めいて言う。
私は眉を顰めながらイライラした。
なんで別れないんだろうその女。
家庭裁判所とかでどうにかならないのだろうか?
知らないけど。
「...先輩」
「なんだ?」
「奥さんと別れるまでサポートしますから。絶対に」
「...お前...」
「そんな人に預けられません。ガサツに扱う野郎に」
私は目からハイライトを消す感じで先輩を見る。
冷食とか舐めているのか?
栄養とか蔑ろだ。
そんな家庭が崩壊している場所に預けられない。
だったら奪うまでだ。
全てをその女から。
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