第10話 闇魔法という物を知っているか?

 マシューはアリナを椅子に座らせ、自分も別の椅子を取ってきて座った。

 張り詰めた空気に耐えきれず、アリナの方から口を開いた。


「あのぉ……呪怪、殆ど消しちゃってすみませんでした……」

「それは別に構わん。殆ど使わないし、幸か不幸か、長時間放置しておけば再生するからな」


 ひとまず安堵した。

 安堵のため息をつき、深く吸い込んだ空気による充足感から呼吸が浅くなっていたことに気付く。

 しかし、マシューが自分を呼び出した理由は、アリナにはわからなかった。


「突然だが」


 マシューは、最初の落ち着いた声に戻っている。どうやら、怒っている訳ではないようだ。

 またまた安堵し、肩の力が抜けた。


「闇魔法、という物を知っているか?」

「ああ。聞いた事はあります。それが具体的に何なのかは、よくわからないんですけど」


 昔、それもまだ魔法が発明されるずっと前に、ファンタジー作品でしばしば登場した物、というのはわかる。

 しかし、実際に使っている例は耳にした事がない。少なくとも、アリナは知らない。


「まあ、そうだろうな。では」


 肩の力が抜けて初めて、マシューの目に笑みが浮かんでいる事に気がついた。

 本当に心の底から、嬉しそうな。


「魔法という物について、少し話そう」


 魔法、特に攻撃系魔法は、発動体でマナ(感情のエネルギー)を変換する際に、魔法の現れ方が個人個人の思考パターンや性格によって、大きな違いが出てくる。


 魔法の研究に携わっていた科学者らは、魔法が発明される以前の科学理論やファンタジー作品で登場する四大元素になぞらえて、地属性・水属性・火属性・風属性と分類した。


「此れらの四つの属性と、そこから派生する多くの属性があるわけだが……光属性と闇属性の魔法は、光、闇の概念はあれど実際には存在しなかった」

「そうなんですか……。でも、どういう経緯でその概念ができたんですか? 存在もしないのに」

「いや、厳密には存在は確認されていた。実験で作られた、仮初めの存在だが。

……それぞれの属性の魔法の、感情による部分だけを抽出する実験がある。分かり易く例えるなら、アルコール百パーセント蒸留酒を作る様なもんだな。実験方法は、説明が面倒くs……複雑なんで省略する。あんな物、文系脳じゃぁ間違いなく理解が及ばん代物だからな。

結果としてはいずれの属性でも、感情の部分の純度が高いと、今までに無い魔法の効果が現れた」


 マシューは、講義の時とは打って変わって若干恍惚とした表情をたたえ、物凄い勢いで喋った。

 魔法科学が凄く好きなんだろうな、と思った。


「感情の種類によって、その効果に違いが出た。喜びや慈愛等、正の感情によるものは光魔法。

そして、哀しみや憎しみ等、負の感情によるものが、」

「闇魔法、ですか? さっきあたしが使った黒いのって」


マシューの鋭い眼光が、アリナを貫いた。


「……御名答」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る