第四章 ― 可変重力環境説と重力糸理論
あの桂川の風――あれに吹かれてから網膜の裏で検証と議論を繰り返した。
『産むとはこんなにも困難で苦しみを伴う行為なのか...』
研究室の虚空を眺めていたらふと漏れた言葉だった。
あれから一週間。
ようやく形になって来た。
その理論を名付け、律子君でも、湯川先生でも他の誰でも構わない。
目を通せるくらいにまとめた書類を私は机に置き研究室を出た。
【重力糸理論の概要】
私が見出した理論を【重力糸理論】と言う。
重力を一種の糸状と新定義し、これを重力糸と名付けた。
現在重力とはアルベルト・アインシュタインの相対性理論により質量を持つ物体が時空を歪ませることで生じる現象と定義されている。つまり質量が一定であるならば重力もまた定数であるということだ。
私の提唱する重力糸理論は、一般相対性理論を否定するものではない。
むしろその不完全さ――重力子の未発見、極限環境での不整合、時間の定義の曖昧さ――を補完しうる拡張理論である。
重力子の存在を捉えるということは、重力糸の断面を一瞬だけ観測することに等しい。
つまり、その本質が「糸」である限り、一瞬だけ見せる“端の光”を切り取って検出することは極めて困難だ。
重力子がもし存在するとするとそれは本質とは異なる“影”にすぎない。
だが、困難と不可能は同義ではないことは明言しておく。
【重力糸の性質と時間】
重力糸は質量間の張力的ベクトルを形成し、非局所的な影響を及ぼす“情報経路”でもある。
それは時空構造の基底に存在する、張力を持つ流動的な線状構造体であり、万物の質量・意識・運動・時間を互いに結びつける重力現象の根源的な媒体である。
簡潔に説明するならば、物質間・量子間を繋ぐ糸状の力場――
身近なもので例えるなら蜘蛛の糸や神経線維のようなものと考えても良い。
極小空間においてもそれは点ではなく線。つまり、threadとして振る舞うのだ。
重力糸は流体的であり、ある種の粘性と弾性(張力と収縮性)を持つ。
その動的特性として、粒子の結びつきのみならず物体の運動や意識の活動によって共振・振動し、時に情報伝達を担いそれを手伝う。
ニュートンから始まり現代に至るまで語られた重力なるもの...
この糸は、惑星内部――とくに惑星コアの活動によって生成され、周囲の宇宙空間に向けて放射される。
そして、その緊張と弛緩が、我々が知る「重力」と「引力」という現象を生み出しているのだ。
我々が“時間”と呼ぶものもまた、この張力変化に伴う情報伝達の速度に過ぎない。
それは、重力糸の緊張と弛緩による情報伝達速度の差異に他ならない。
つまり、「時間」とは絶対的な流れではなく、
**張力の変化に伴って現れる“現象”**である。
それを我々は、長い間“時間”と呼び続けてきたにすぎない。
我々が1秒と定義してきたもの、それは非常に相対的な体感現象だったのだ。
【観測と月の運動】
重力糸の極小単位である"重力子"の観測は非常に難しい。
先にも述べたがその本質が「糸」である限り、「子」としての姿は極々刹那的一瞬の“端の光”を切り取って検出する行為となる。
重力子としての存在を切り取ることは困難でも、重力糸が及ぼす様々な自然現象の観測は間接的には可能だ。
たとえば――月。
相対性理論が正しいとするならば、月は地球の重力井戸に落ちて衝突するか、少なくとももっと近くを周回しているはずだ。
しかし古代人の記録にもある通り月は、何百年...何千万年も前から“ずっとそこにある”。
つまり、月はただ落下しているのではない。
重力糸によって、地球と結びつけられているのだ。
この張力が、月と地球のあいだに一定の距離を保たせている。
さらに重要なのは、月が常に“同じ面”を地球に向けていること。
これは自転と公転の周期が完全に一致している現象、いわゆる自公転同期だ。
この運動は、まるでボールに紐をつけて振り回す時のようなものであり、月の一面が強く重力糸に結ばれていることによって生じる現象だと考えられる。
そして、潮の満ち引き。
これは月による重力の影響――とされてきた。
だが実際には、地球と月との重力糸の張力が海水面を押し上げている現象と捉えるべきだ。
海は、張力の影響を最も受けやすい流体であり、その緊張と緩和が波として現れる。
重力とは“引く力”ではない。
結ばれた者同士の張りとしなり、そしてそれに伴う情報と振動の現象なのだ。
【質量と浮力の説明】
重力糸は万物を繋ぐ場である。
例えば空に浮かぶ雲は、その質量が小さいためコアとの結束が弱く、浮かぶことができる。
一方で、金属のような重質量体は重力糸の束縛が強く、よりコアや周囲物質と強固に繋がれるため、浮上せず沈む。
【重力の呼吸と進化】
張力は、時に緊張し、時に弛緩する。
それはまるで、この星が静かに“呼吸”をしているかのようだ。
地球のコアは、数十億年という単位で、極めてゆっくりとした“呼吸運動”を行っている。
その“呼吸”に応じて、重力糸の張力もまた変化し、結果として重力子の張力状態が変化し、
周辺の重力場に変動をもたらす。
その変動こそが、地軸の傾き――
すなわち「ポール・シフト現象」や、「地磁気の反転」、さらには気候の極端な変化をも引き起こしてきたのではないか。
そして、生物史の進化もまた例外ではない。
地球という“重力の器”の中で生命は常に重力糸の状態に適応しながら形態を変えてきた。
重力糸が“緩んでいた”時代...
この星には30トンを超える巨大な生物が地上を闊歩していた。
だが、もし重力が本当に“定数”であるならば――
なぜ現代において、あれほどの巨体を持つ陸上生物は存在しないのか?
この問いに対し、かつてチャールズ・ダーウィンはこう述べている。
「最も強い者が生き残るのではない。
最も賢い者が生き残るのでもない。
唯一生き残るのは、変化に適応できる者である。」
つまり、進化とは環境への適応の記録であり、
その“環境”の中に「重力場」――すなわち重力糸の状態が含まれていたとしても、何ら不自然ではないはずだ。
重力糸が作る環境への適用こそ進化史の大きな一要因と言っても過言ではないだろうう。
現在、地上における最大の生物は、陸上ではなく海中に存在する。
シロナガスクジラ30トン――かつて陸上にあったその巨体は、海水によって重力の影響が分散されることでかろうじて成立している。
つまり、海中という環境がかつて陸上に存在したその巨体の存在を現代に許し“緩んだ重力”を再現しているのだ。
私はこの現象を【可変重力環境説】と呼び、重力糸理論のもう一つの柱として提唱する。
重力は、決して静的で定数な力ではない。
それはこの星の呼吸に合わせて変動し、
すべての存在に影響を与える――
動的で、生きている“環境”そのものなのだ。
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