第4話 18歳になったら迎えに行くよ
「そしたらまたな、学校の行事もけっこう一緒にやりそうやからちょくちょく来るわ」
そう言って姫路君たちは、男子校に帰った。私たちもそれぞれ、夢さんは用事があるから学校から直接車で、氷山さんたちもそこで別れた。
カンカン鳴っている伝説の踏み切りを横目に駅に行ったらちょうど電車が来てて、次の電車に乗ることにした。
(あっそうだ)
私はスイッチを取り出す。朝、何もできなかったし、帰りのこんな、電車を待っている間ならすこしくらい、装備をやりなおすことができるかも。
信じられないけど昔は、中断セーブとか、ゲーム機本体のスリープとかなくて、セーブできるところまでゲームをすすめるか、あきらめて前にセーブしたところからやり直すとかしかなかったらしい。お父さんはゲーム機をつけっぱなしで高校に行って続きをまた帰ってきてからやろうとしてら、おばあちゃんに部屋の掃除をされて片付けられちゃったこともあると言っていた。
「ゲームの続きするだけでも必死だったね」
「それでも」
お母さんは、お父さんにそんな話を聞いて笑っている私に言った。
「ゲームのやりすぎはだめよ」
次は15分後だったよね……とホームで時刻表を探した。そこには、ナララとキョートの間のどの駅に快速が止まるかとかの図もあった。--知らなくてふりがながないと読めない駅がたくさんあった。
(でも、これってスキルツリーみたいだなあ)
ロールプレイングゲームでレベルアップすると、新しい
返し斬り、2回斬り特級、俊足の心得特級、踏ん張りレベル特級、晴天の閃き--双剣轟天飛翔奥義までには戦士のレベルが45以上かつこれだけのスキルがいる。さらに特級スキルは初級、中級、上級までないと取れない。ゲームによって細かい違いはあるけど、これがスキルツリーだ。
(ええと、武闘家はどうだったけな)
魔魂打破奥義が武闘家レベル45以上、俊足と踏ん張りは戦士と一緒で……駅の一覧表をなぞって思い出しているうち、
「精霊のささやき、気功師特級、あと蹴りと突きは中級と上級」
「そうそう、蹴りのスキルをつけ忘れてボスの前で苦労し……はぇ?」
背後から声がして、指が目の高さにある次の次の駅の名前で止まる。あわててよけてふりむくと……
「えっと、あの、さっき会った」
「香芝」
笑って、香芝君は鞄を肩にかけなおす。
さらさらだな、髪。前髪はピンで止めてる、んだけど……ピンについている小さな透明の粒が青く、日差しで光った。
「リキッドスライム!!」
そう、それは『ストリートクエスト』に出てくる中ボスで、かわいい姿のわりに特殊能力がいろいろあって、でもキャラグッズはけっこう販売されている、それだったから、大声で叫んでしまう。
「やっぱり! あははは、さっきは席離れてたからわからなかったと思うけど、話してて、ぜったい気づくと思ってた! 君相当ゲーム好きでしょ?」
「あっはい、でも、あの、eスポーツはキョーミナクテ」
後半は棒読みみたいになったけど、香芝君はニコニコしている。
「じゃあ、eスポーツじゃないやつに、相手してくれる?」
「……へ?」
***
「というわけで、いいかなあ?」
私はお母さんにちゃんと電話して、ちゃんと行先を話し18時までに帰ると約束して--香芝君とナララ駅から家と反対方向に歩き出した。その先には……
「あれっ、かけるんと……速人じゃん」
「店長、こんにちは」
「ふたり、友達だったの?」
ナララ駅の商店街にある、『レトロゲームショップ リルガミン』。私はこの店の常連である。小学生のころからお父さんと一緒に来ていたのだ。私が生まれる前に売っていた古いゲーム機や、攻略本とか、ゲーム音楽のCDとかが、いっぱい置いてある。
「あ、あの、今日会ったばっかりで--」
「大和、テストプレイヤー連れてきた」
香芝君も店長をよく知っているようだった。でも、テストプレイヤー、って?
「おお、助かる」
レジの前にある小さなテーブル--カードゲームができるくらいのスペースに、店長は店の奥から、何かを持ってきた。テレビにつないで使うゲーム機のスーパープレイコンだった。
「かけるんの家にあるよねこれ」
「あっはい」
お父さんが大事にしているやつなので、もちろん知っている。店長はそれにコントローラーを2つつないで(今だとワイヤレスだけど、線がいるのだ)、ゲームのカセットをさしこんだ。
『パンチファイター 3』
スーパープレイコンで一番売れた格闘アクションゲーム。キャラクター20人、千差万別の技を使って、ボイスデータも凝りに凝ったから、カセットの容量制限があって、タイトル画面が真っ黒に文字だけという、別の意味でも伝説を作った。
「パンファイ3……」
「本体をこの前買い取って、手に入れたいっていう人がいるんで、動作確認をしたいって速人に頼んでたんだよね」
「バイト代くれよ、緑青は男子も女子も普通にバイトOKだからな」
香芝君は片方のコントローラを私に差し出す。
「ショールーケン出せるよな?」
「ショールーケン!」
「メガファイヤー!」
数分後、私と香芝君は必死でパンチファイターの対戦をしまくっていた。
「け、削られる~」
「よっしゃ!」
「うへぇ」
パンファイシリーズをプレイするのが久しぶりすぎて、香芝君に負けっぱなしだった。でも、楽しい。
「いやぁ、クラスでパンファイできるやつ探したんだけど、今のバージョンしかできないって言われて。ハトーケン!」
「今のって、eスポーツ対応のパンファイ99だっけ? 動画は見たことあるけど、やっぱりアクション性が高いし、オンラインだし……レップーケン!」
「オンラインもあんまりやらんの? トツゲキセンプーキャク!」
「お父さんと約束してる。18(歳)になってからじゃないと、スチムーもできないでしょう? スプリングスピンキック!」
「そうだな、スチムーで動作するゲームがほぼほぼ今のトレンドだしな」
「でもだいたい、撃ち合いとかばっかりだから、しないかも」
「へー」
香芝君は溜めうちの構えを画面で見せる。これは隙をついて速いとび玉を打てば勝てるかも……と思ってボタンを押しかけたそのとき。
「じゃあ、18歳になったら、迎えに行くよ」
「----はい?」
とび玉コマンドをミスっている間に、香芝君の溜めうちキャンセルからの必殺飛込み強キックが華麗に決まって、私は10敗目を喫した。
「スチムーのアカウント作るだろ? そしたらエントランスゲートにアバターおけるし、そっちで遊ぼうな」
(ああ、そういうことか……)
とりようによっては、すごい言葉だと思ってしまった。
「かけるん、そろそろ時間だね」
店長が壁の時計を見て、帰る時間を教えてくれた。
「二人ともありがとう、技とかちゃんと出た?」
「OK、問題なし。コントローラの中の部品も壊れてないはず」
「本体、すっごくピカピカに磨いてますね」
20戦、7勝13敗。結構やりこんでたとはいえ、その何倍も練習していたと思う香芝君にはかなわなかった。
「パンファイは3が最高だな。99のマイナーアップデートもいいけど」
「スイッチ版の一人モードで試したときは、99.4だったけど、今どのくらいだっけ?」
「99.7」
「じゃああと3つあがったら、パンファイ100になるの?」
「いや、山田が言うには」
山田……お昼を食べたときにいた、網干君くらいの背の、カラーレンズの眼鏡の人か。
「バージョンってのは繰り上がりにならなくて、マイナーのときは99.9の次は99.10みたいになるらしい」
「そ、そうなんだ……」
「じゃ、またな」
「あ、ありがとう、楽しかった!」
お店の前で別れて、私は家に急いだ。今日は、お父さんは残業なしで帰ってくるはずなので、みんなでご飯の時に、今日あったことを話そう。そして、ちょっとでも、お父さんとお母さんに--心配をかけてたから、笑ってもらえたらいいなと思った。
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