死にたい日々、やっと死ぬチャンスがやってきたのに、クラスメイトの美少女に助けられてもらってしまった

うさうさ

第一章 美少女と秘密レッスン

第1話 クラスメイトの美少女に助けてもらった

 昔から俺は特別な人になるのが夢だった。いずみあまね、という名前をこの世に残したかった。


 しかしそんな俺の夢は中三の時、粉々になってしまった。


 才能という壁が前を立ちはだかった。俺が何をしてもこの壁は乗り越えられないことに気づいた時、果てしない虚しさが俺を包んだ。今まで頑張った時間が虚しく感じられた。


 結局俺は夢を諦めた。


 夢を諦めた後からは、意味のない日々の連続だった。朝目覚めたら学校に行って、帰ったら特に何もしなかった。親の頼みで店の手伝いをして夕飯を食べて部屋に入ってベッドの上で目を瞑る。こうして意味もなく繰り返す日々を送っていると、いつの間にか一つよからぬ考えが頭の中に思い浮かんだ。


 死にたい


 何の希望もない生活をただ繰り返すくらいなら、いっそ死にたかった。


 しかし、俺には自ら絶つ勇気がなかった。

 毎日死にたいと思うくせに、自ら命を絶つ勇気もないなんて、そんな俺自身が情けなさすぎて笑いしか出なかった。


 こうして俺は毎日死ぬ勇気もなくただ生きている。

 事故やサドンデスを願いながら。明日の朝、永遠に目が覚めなければいいと願いながら、毎晩眠りについている。

 そして今日もこの眠りが最後になり、永遠に目覚めないように祈りつつ、目を瞑る。


******


「今日も死ななかったのか」


 朝日が差し込む朝。俺は目を覚ました。

 永遠に目覚めない、俺の願いは一年経っても叶わなかった。


「また一日を生きなきゃ、か」


 やけに天気はいい。陽射しが眩しすぎて目を開けられないくらいだ。

 窓の外を眺めながらため息をついていた中、突然ドアがきつく開かれた。


「周! 今何時だと思ってるの! 学校遅れるよ」


 母さんだった。


「さっさと起きて支度しなさい」

「わかったよ」


 適当に答えて母さんを部屋から追い出した。ドアを閉まって静寂だけが残った部屋で、俺はため息を吐いた。


 家族はまだ俺が死にたがっていることを知らない。どうせ話してもややこしいことになるのが見え見えだし、余計に家族に心配かけたくなかった。


「だから早く準備しなきゃ」


 俺は制服に着替え、床に転がっている鞄を取った。そして部屋を出て、すぐ玄関に向かった。


「周、朝ご飯は?」

「食べない」


 台所から聞こえる母さんの問いに、靴を履きながら答えた。


「今日も店の手伝いしてくれるの?」

「うん」


 どうせ帰ってやることもないから。


「行ってくるね」


 台所にいる母さんに聞こえるようにちょっと大声で言って玄関のドアを開けた。外は秋の涼しい空気が皮膚をくすぐった。

 俺は何も考えずにいつもの通学路を歩き出した。


 高い秋空がやけに青い。その青空を見ていると、なんか意味もなく生きている俺をあざ笑うような気がして、すぐに俯いた。


「事故とか起きないかな」


 自殺する勇気はないし、毎朝元気に目を覚ます俺に残された方法は、事故死だけだった。


 そしてこんな都会で起こりそうな事故といえば、多いのは交通事故だけど・・・


 と思いながら歩いていた瞬間、突然右側から耳をつんざくようなクラクションの音が聞こえてきた。

 顔を上げてみると、一台のトラックが俺に向かって突っ込んできていた。


 え、ホント? 夢じゃないよね。あのデカさのトラックなら・・・・・・


 確実に死ねる。


 と思った俺はクラクションを鳴らしながら速いスピードで突っ込んでくるトラックを見ても、一歩も動かなかった。それが恐怖で体がすくんでいたせいか、それとも、この無意味な日々をやっと終わらせられるという事実にわざと動かなかったのか、理由は自分でもわからない。


 しかし理由はともかく今大事なのは、このままなら俺は死ねる。やっとこの無意味な人生を終わらせることが・・・


「危ないっ!」


 その瞬間、いきなり何かが俺の背中をぐいっと引っ張った。そのせいで俺はそのまま後ろへ倒れ込み、目の前でトラックはギリギリ俺を轢かずに通りすぎた。


「ふぅ危なかった。危うく死ぬところだったよ、泉くん」


 まだ状況が飲み込めず、呆然としていた中、亜麻色の長い髪が視界に入ってきた。振り向くと、そこには同じ制服を着た少女が、背中を支えてくれていた。

 太陽の光を浴びてきらきらと光る亜麻色の髪と雪のように白い肌。大きな瞳にすっと通った鼻筋、そしてさくらんぼのような唇。誰もが振り向くような美人。

 知ってる子だった。俺と同じクラスのやなぎさんだ。


「危ないでしょ、ちゃんを前見て歩かなきゃ」


 柳さんは手で服の埃を払いながら立ち上がった。俺はそんな彼女をぼーっと見つめた。


「大丈夫? 怪我してない?」

「ん? あ、おかげさまで」

「ふぅ〜よかったぁ。じゃあそろそろ時間やばいし、私先に行くね。泉くんも急がないと遅刻しちゃうわ」


 柳さんは横断歩道を駆け抜けながら言った。俺は呟くように小さい声で「うん」と答えた。


 高校一年の秋、やっと死ぬチャンスが訪れた俺は、柳さんに助けてもらっちゃった。

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