第46話 ダンジョンでの過ごし方

   ▽第四十六話 ダンジョンでの過ごし方


 ちょっと辛くなってきた。

 8時間は滞在せねばならないダンジョンだ。8時間経過せねば物理的に脱出することができないそうである。


 人は少ない。

 というか居ない。ギルド職員でさえも滅多に入らないようだ。8時間は長い。


「ご飯も食べないとだ」


 今のカイトは餌皿に犬用フードを注いでいる途中だった。

 タラリアの索敵によればしばらくは大丈夫、とのことである。とはいえ、ずっと安全なわけでもない。


 急にダンジョンが魔物を生み出すこともある。


 シュマロが美味しそうに餌を貪る。

 それを眺めながら心配も増える。犬は食後に激しい運動をすると胃捻転を起こすことがある。レベルが上がっている分、身体は頑丈になっているが……限度はあるだろう。


 だから量は加減してある。

 回復薬も保険で持ってきているから問題はないはず。それでもなんとなく心配になってしまうのはテイマーの性かもしれない。


 かといって餌をやらないには運動量的にあり得ない。

 エネルギーが切れて動けなくなるだろう。それほどの動きをしているのだ。


 一方のカイトも食事を始めていた。

 テイマーのスキルたる【インベントリ】に隠していたサンドイッチだ。むしゃむしゃ、と手作りサンドイッチを食べていく。


 手っ取り早くカロリーを得るためのピーナツバター。

 美味いけれど物足りず。


 もっと豪勢な食事もしたい。

 が、今の【インベントリ】はまだまだ収納力に限界がある。残念ながら悪魔討伐でレベルの上がった二人だが、新スキルは取得できなかった。


「次は【インベントリ】強化がほしいな」


 食べ終えた。

 ぱんぱん、と手を雑に払う。食休みをしたいところだが……タラリアが警告を入れてくる。どうやらトロールが出現したらしい。

 遠くからやって来たのではない。


 あくまでもダンジョンが無よりトロールを生み出したそうだ。


 シュマロはやる気だ。

 今のカイトの手札でトロールソロ討伐は難しい。コピーでの攻撃にせよ、再生能力のあるトロールを一撃死させる火力はないからだ。


「デコイのクールタイムが5分。それから【記憶】のクールタイムは3分か」


 連発できればソロ討伐も簡単だったのだが……

 やはり仲間はほしいかもしれない、とカイトは思った。シュマロと自分で適正レベルならば順調に進むことができる。


 けれど、今回のようなタイミングで休めないのは……問題かもしれない。


 もうシュマロは世間様に露呈している。

 パーティープレイを阻む秘密は存在しなくなった。あれだけ熱心に勧誘されたことから、自分たちが足を引っ張るということも考え辛い。


「それでも信頼できる人がいないんだよな……」


 はあ、とため息を吐いた。

 ちょうどトロールがやってきた。カイトが何をするまでもなく、シュマロが高速戦闘を繰り広げ始める。


 トロールの火力は高い。


 シュマロも下手に直撃すれば無事では済まないだろう。それでもシュマロの敏捷値を以てすれば被弾のリスクは皆無に等しい。

 カタツムリと鬼ごっこに興じているようなもの。

 怪物の足を執拗に爪で傷つけ、最後には【フルスイング】が炸裂した。


「タラリア。シュマロの残りMP予測を聞けるかな」

『残りMP量25パーセントと想定いたします』

「なるほど……」


 MP量はジョブとレベルとである程度予測できるらしい。ステータスの伸びについては大して個人差がない。

 テイマーとしての【MP成長強化】も取得していないので予測は簡単だ。


「MP回復薬は一日に一回しか飲めない……」


 ポーション中毒、というものになるらしい。

 一度目は何の問題もなく。二回目以降からは苦痛を伴い、四回目ともなれば命にも関わると言われている。

 飲み干すだけでMPが30パーセントも回復するので強力なアイテムではある。


「ポーション以外は問題ない、んだよな?」

『その通りでございます。また、同ジャンルのポーションを連続飲用することが問題です。MP回復薬とHP回復薬、バフポーションなどは別途で加算されます』


 ポーションは塗布によっても効果が出る。

 ただし、その場合は効果はかなり減じてしまう。二回目以降は中毒にこそならないが効果も出ない。


 強敵に何度も回復ポーションをぶつけて中毒死させることは不可能だ。


 ただ強引に飲ませることができるならば、毒殺は可能だった。そのようなことができるのならば普通に殺したほうが早いのだが。

 例外があるとすれば口が大きな生物だろう。

 それについても、図体によって中毒へのなりやすさは異なるので難しい。


「そうか……たとえばポーション判定じゃない、MPが回復する草とかはないの?」

『ございます。たとえば――』


 タラリアがライトを照射する。

 そこに生えているのは青白い葉を持つ雑草だった。カイトの目にはやや不思議な印象を持つだけの雑草に違いない。


 しかしながら、高精度のAIが搭載されてあるタラリアのカメラには違う。


『それは魔力回復薬の原料のひとつです。微量ではございますがMPが回復いたします』

「摂取上限は?」

『日に一キロを摂取すると問題が出る懸念がございます』

「一キロも食べない……で良さそうかな」

『あの草一本でMPを数分かけて1パーセント回復させられます』

「なるほど。即効性はないか。MP自然回復力が伸びる感じかな。良い」


 草を引き抜いて一口だけ頬張ってみる。

 苦みがある。が、決してはき出すほど不味いわけでもなかった。身体が欲している栄養だからなのかもしれない。


「シュマロも食べて問題ない?」

『ございません』

「じゃあ……シュマロ」


 草を千切ってシュマロを呼ぶ。

 サモエドは不思議そうに草に鼻を近づけ、くんくん、としばらく嗅いだ後にはむりと食した。思ったよりも良かったようで、むしゃむしゃと食べきる。


「毒がある奴とかある? 気をつける草」

『ございます』


 シュマロが「草は食べ物」と認識した所為で、タラリアが毒と評した草に近づこうとしていた。カイトは「駄目だ」と何度か繰り返して躾に成功した。

 こういう時のために食事前の「待て」は必要なのだ。

 最初、カイトは「食べたきゃ食べりゃあ良いじゃん」と思ったのだが、本を読んだところ、誤飲・誤食を防ぐために必要な躾とのことだ。


「とりあえずタラリアがすごいことは解った……」


 ダンジョン探索に於けるタラリアの役割がすさまじい。

 ちょっとした罠ならば見抜けるし、索敵も可能で、難しいダンジョンのスケジュールも機械ゆえに判断に躊躇がなく正確だ。

 そして草の見分けもできるという。


「買って良かった……まだローンは残ってるけど」


 それからもカイトたちは戦い続けた。

 敵出現の間隔が長いので適宜、休息を挟むことは可能だったが……しんどい。狩りの調子が良くて自発的に8時間潜り続けるのと、強制的に8時間は出られない、では精神の摩耗具合は異なる気がする。


 シュマロも途中で飽きてしまい、昼寝など始めたのだから困りものだ。


 カイトたちはダンジョンを変えることを決めた。


   次回 誘拐とS級探索者

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