第34話 P.6

 今日の戦利品である、真っ赤なパンティと女児用のピンクの綿のパンツをそれぞれ両手に持ちその感触を確かめてから、布に鼻を近づけてクンと匂いを嗅ぐ。手の中の布からは花が香るように淡い匂いがした。私が好きな匂いだ。この匂いが世間で「フローラル」と呼ばれていると知ったのは、高校生の頃だった。英語で「花のような」という意味で、香りの世界ではその意味の通り花の香りを指している。


 そんなことなど全く知らなかった高校生の私に、周りの人たちよりも少しだけませた感じの友達が、ある日言ってきたことがあった。


「男子には、石鹸の香りがするような清潔な女子がモテるって雑誌には書いてあるじゃん?」

「さぁ。そうなの?」


 恋愛トーク的な事にまだ疎かった私が首を傾げると、彼女は大真面目な顔でうんと頷いた。


「そうなの。女子感丸出しの甘ったるい匂いよりも、部活後の制汗ケアは清涼感のあるものの方が男子には断然人気なんだって。でも、私的には絶対フローラル系の方がいいと思うんだよね。ねぇ、どう思う?」

「どう思う? って聞かれても、匂いの好みなんて人それぞれでしょ」

「そうだけど、やっぱりフローラル系の方が意識されやすいと思うの」

「よく分かんないよ。清涼感とかフローラルとか言われたって」


 私が眉をひそめてそう言うと、彼女は鞄をごそごそと漁り出した。「ちょっと目を閉じていて」と言うので、言われた通り私は目を閉じる。すると、鼻先にシュっとミストがかかった。


「ちょっと何するの?」


 突然のことに驚き目を開けると、目の前の彼女はいたずらがバレた猫のようにニヤッと小さく笑った。


「ごめんごめん。これが清涼感のある香り。う~んと、これには『せっけんの香り』って書いてある。どお?」


 彼女が小さな瓶を私の前で振って見せる。


「う~ん。よく分かんないけど、そう言われれば、せっけんの匂いがするかも」

「じゃあ、こっちは?」


 彼女はまた鞄を漁ると、私の顔の前でシュっとした。その匂いを嗅いだ瞬間、私は目を細めて、さらに大きく息を吸い込んだ。そんな私の様子を見た彼女は満足そうに笑う。


「ほら。やっぱりこっちの方がいい匂いでしょ?」

「う、うん。すごく……これって……」

「こっちがフローラル。やっぱり、こっちの方が男子ウケすると思うんだよね」


 私の最大の秘密。鼻先で香るその匂いに、心臓がバクバクと鳴る。その音が彼女にまで聞こえてしまうのではないかと思うと気が気ではなかった。

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