十八刀目 個人魔法試験 後編
「先生、俺の魔法、代償が大きくて……」
朝倉先生はこくりとうなずく。
「理事長から聞きました。大和の魔法、和なんですよね?」
俺は思わず声をあげる。
「え」
クラスメイトも続いて声をあげた。
「え」
……いや、言っちゃうんですか、先生。俺、隠してたのに。
壱組の人がこっちを見ているのがわかる。視線がドスドス背中に刺さってくる。視線が痛い。振り向くのが気まずい。
「あーー……言っ……ちゃ、ダメなやつでした?これ……」
先生が口を手で押さえる。今じゃないんだよなぁ。もう遅いんだよなぁ。俺は目を逸らしながら言う。
「え、いやぁー……ははっ……大丈夫ですぅー……」
本当に怖い。音也とかは苦手なタイプではあるけど、相手は俺のことを友達だと思ってくれてるんだ。初めてできた友達だ。無くしたくはない。
……でも、振り向けないんだよなぁ。
とりあえず先生に言う。
「個人魔法はできないので、一般魔法でもいいですか?」
「どうぞ」
「紅き焔よ、遠き黄昏の海より現れよ。
我が心臓の鼓動に呼応し、怒りを炎へと変えたまえ。
灼熱の刻印を……」
こっから噛みがちなんだよな。端折るか。
「炎球」
先生は少し驚いたような、嫌気がさしたような?そんな声で言う。
「今……詠唱を端折りましたね」
「あ、はい。いつもは無詠唱なんですけど……駄目でしたか?」
「いえ、そんなことないんですけど……」
先生は少し考え込んで、俺に下がるようにと指示した。
次は夏之介。夏之介は眉をひそめて、無言で右手を差し出す。すると、そこから爆炎が上がった。先生は少し首を傾げて聞く。
「それが、夏之介の個人魔法ですか?」
夏之介は無言で頷く。すると、皇さんが夏之介に言う。
「一言ぐらいは返事すれば?」
すると、夏之介は皇さんの手首を掴んで引っ張っていき、木の後ろに隠れて何かを話し始めた。いや、でも、声が大きすぎるせいで聞こえてきてる。
「うるさい!なんであんな大勢の前で声出さなきゃいけないんだよ!」
「お前、アガリ症だからってクラスメイトと会話しなかったらいつまで経っても何も変わんねーだろ!」
その後数秒して、2人が帰ってきた。
夏之介が先生に会釈をする。
すると、皇さんが夏之介の頭をはたいた。
夏之介も、皇さんの頭をはたいていた。
「次は千鶴ですね」
「千鶴〜?千鶴はねぇ、ちょっと特殊なの!例えばね、腕を切るとするでしょ?」
そう言いながら、刀を抜いて、何の躊躇も無く腕を切り落とす。
「でぇ、このまま魔力を込めるとぉ」
そう言った瞬間、切り落とされた腕が爆発する。
「こうなるの!つまりぃ、千鶴の個人魔法の代償はぁ、千鶴の個人魔法ってこと!更にぃ、取れた腕はぁ、上級の上……神級の治癒魔法かぁ、復元とか、そっち系の個人魔法じゃないとぉ、直せないんだよねぇ」
先生はなるほど、と頷き、解決策を述べる。
「なら後で理事長に直してもらってください。次、結衣」
𣍲坂さんは無言で前に出て、すぅっと消えた。服だけ残して。どこかに行ったんじゃない。本当に目の前で消えた。
「なるほど、透明化ですか。面白いですね」
𣍲坂さんは一度元の姿に戻って、後ろに並んでいる矢太郎の手をつつく。すると、矢太郎が透明化した。服だけ残して。
「なるほど、生き物だったら透明化させられるんですね」
𣍲坂さんは無反応だった。返事をするでもなく、首を振るでもなく、矢太郎の透明化を直し、ただ先生の目を見つめて、そのまま列に戻っていった。
「はい、次は矢太郎」
矢太郎が前に出て、手を前に出した。先生に向けて打つと危ないからか、先生にも、俺たちにも当たりそうにない向きに。矢太郎が手に魔力を込めると、手の前に紫色のなにかがゴポゴポと音を立ててわき上がってきた。それを、地面にたたきつけると、ジュワッと音がして、地面が一部溶けた。
「僕の魔法は毒。いろんな毒が出せるけど、今のは酸性が強めの毒で、物を溶かすときに使えるものです。中には感覚を麻痺させる程度の毒とか、痛みを感じるだけの毒とか、いろいろあるのですが。もちろん解毒魔法も使えますよ」
先生はぱちぱちと手を叩いて、とても良い魔法だと褒める。
「ちゃんと解毒まで使えるなんて、用意周到ですね!大事です、後片付けまで考えること。じゃあ、最後、秋星」
秋星はにっこり笑って両手の人差し指と親指を前に出す。二つの指をゆっくり開くと、そこに鏡のような、ガラスのようなものが現れた。
「ここに魔法を打ち込むと、跳ね返るような仕組みになってるんです。でも、自分の魔力より相手の魔法に込めた魔力の量の方が多いと、壊れちゃうんです。でも、その壊れた破片も、相手にぶつかれば軽いダメージは与えられます」
先生はまた拍手をする。なるほど、こう言うのが好きなんだな、先生。
「二段構えなんですか!いいですね、破られたことも考えているなんて。……さてと、皆さんの個人魔法の魔種も知れましたし、教室に戻って帰りの会としますか」
すると、音也が勢いよく手を挙げた。
「先生の個人魔法は何ですかー?」
先生は、音也の顔を見て迷いなく言う。
「それは、まだ教えられませんね」
それだけ言って、先に教室へと戻ってしまった。
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