天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜

白銀鏡

序章 笑顔と共に

第0話 ぶつかる魂

 俺の名は白銀鏡シロガネカガミ、小説家だ。

 とある人気ファンタジー小説の、著作者である。


 その物語とは、王国騎士である主人公マルクが、“女神族”と呼ばれるヒロイン、ルミナと共に旅をし、大陸に平和をもたらす王道ファンタジー。

 仲間との、出会いと別れを通じた友情、恋愛といった誰もが引き込まれる胸熱ストーリーだ。


 今やこの作品は、アニメ化、グッズ販売などと飛ぶ鳥も落とす勢いの人気で、念願の“第二シリーズ”の著作が発表されている。


 ……はずだった。


 ——しかし、現実は。

 大金をはたいて、思い切って自費出版に踏み出す挑戦をし書籍化を果たしたのだが、結局のところ全然売れずに、六畳一間のボロアパートの隅に山積みとなる始末。


 おかげで今は、うだつの上がらないアルバイト生活に安酒をあおるだけの毎日。


 続編の話の発表など、夢のまた夢だった。

 

 ……こんなはずではなかった。

 税金は日々増すばかりで、物価は高騰。俺の努力の結晶である作品も誰にも理解されない。

 今日もまた、なけなしの財布を持って、その心を誤魔化すためのを買いに行く。




 ——帰り道。

 とにかく全部どうでもよくて、ただ足だけが一人でに動いていた。

 金も希望のすっからかんの抜け殻状態に、俺はさらに酒を流し込む。


 ……どこで間違ったのだろうか?

 幼少期から普通の家庭に生まれ、普通の学生生活を送り、普通の会社に就職。

 だが、このまま普通の結末を迎えることに、どこか嫌気がさし、思い切って小説家になることを決意した。


 だが、そのおかげで今は——普通以下の結末まっしぐらだ。

 諦めるな? いつか夢は叶う? ……笑わせる。

 いくら足掻いたって、ダメなものはダメ。なぜ、こうなるまで気づかなかったのだろうか。


 ——この時俺は、極限にまで低下した思考能力により、目の前に迫る巨大な鉄の塊に気づく事ができなかった。



(——あれ? 何が、起きたんだ?)



 俺の思考能力は、さらに低下していた。

 唯一理解できたのは、俺の体の全面に押し付けられたアスファルトが、妙に冷たいという事だけ。


(ああ、そういうことか……)

 

 人だかりの中心で横たわっていた俺には、もう声を発する力すら残っていなかった。

 

 ——これがの瞬間。


 そうだと知った俺は、心の中で大切な人を想い——念じていた。



(母さん……ごめん)



 こうして白銀鏡シロガネカガミの魂は、一人虚しく、から消え去ってしまった——。

 


* * *

 


 ——”白銀鏡”の命が終わったその“ほぼ同じ瞬間”。

 ある大陸のどこかでもまた、ひとりの青年の生死が揺れていた。


「——はあ……はぁ」


 深傷を負った青年騎士が、草木を掻き分けただひたすら走っている。

 

「観念しろ! め!」


 殺意のこもった罵声を背に浴びながら、彼はついに足を止めた。


「ここまで……か」


 森を抜けた先で見たものは、立ちはだかるような激流。

 やがて、彼の背を黒甲冑の男達が囲んだ。


「もう、逃げ場はないぞ——」


 ——だが次の瞬間、青年は迫る脅威に振り向くこともせず、その激流にそっと身を預けた。


「何っ——⁉︎」


 彼の早すぎる判断と共に、その身は一瞬にして行方をくらませた——。


「ごぼっ……ごぼっ」


 ——薄れゆく意識をなんとか保ち、必死にもがく青年騎士。激流の中、度々目の前を横切る鮮血が、彼の終わりを示唆していた。


「(アリシア……様)」


 何かを念じ、最期の時を迎えようとする青年。

 やがて、彼の目の前は——真っ暗になっていく。


 ——ここは、自然に囲まれた“アリヴェル”と呼ばれる国。


 

 そしてこの物語は


 魂と魂がぶつかる音によって


 今、本当の意味での始まりを迎えた——。

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