推しを守るため、ラスボスの婚約者として頑張ります!

もり

第1話 転生万歳!


「本日ここで、我が弟ダミアン・レ・プラドネルとカラベッタ侯爵令嬢レティシアの婚約を発表する!」


 国王陛下が建国記念のパーティーで高らかに宣言されたとき、私の頭は人生最大の混乱をきたした。

 周囲からは祝福され、あちらこちらで乾杯され、喜びに溢れる王宮の大広間に、羨望と嫉妬も入り交じっている。

 そんなことはどうでもよくて、私は隣にいる婚約したばかりの王弟殿下ではなく、すぐ近くで大臣と話している王太子殿下を見つめていた。


(嘘でしょう? これは夢よね? だって、だって……)


 憧れの王子様が目の前にいる!

 私の激推し!

 私を乙女ゲーム『王子様は君の手に♡』の沼に沈めてくださったアクセル様がいらっしゃるのよ!

 話して、動いて、息してる!


 待て待て待て、私!

 どう考えてもおかしい。

 夢にしてはあまりにリアル!


 思い出そう、私。

 記憶があるところまで思い出せ。

 ええっと……私はレティシアで、アクセル殿下をお慕いしていて、でも殿下には婚約者がいらっしゃって……。


 違う、そうではないわ。

 二年前に婚約者だったカリナ様が不慮の事故でお亡くなりになって、今日のパーティーではアクセル殿下の新しい婚約者が発表されるんじゃないかって噂されていたのよ。

 お父様に訊ねても教えてくれなくて、でも何か隠していらっしゃるようで……。


 まさかのサプライズ発表!?

 ってドキドキしてたら、王弟殿下かーい!

 というか、私がダミアンの婚約者!?

 サプライズが過ぎる!


 じゃなーい!

 それは私、レティシアの記憶。

 私は私でも私ではなくて、私の記憶が必要なのよ。


 私……私は坂町晴乃さかまち はれの

 そう、そうよ!

 晴乃という名前なのに見事な雨女。

 ええ、今も会場の窓から見える外は雨。


 で、私の記憶が確かなら……昨日の夜は……いや、正確には朝まで『王子様は君の手に♡』――略して『王子様ラブ』(私が考えたんじゃないわよ)をプレイしていたのよ。

 ええ、徹夜です。


 そのまま憂鬱な雨の中、会社に向かって……。

 そうだ。

 雨水が流れ込んで滝のようになった地下鉄の階段を上っているときに、足を滑らせ……たまでは覚えてる。

 あれ? それからは?


「レティシア、婚約おめでとう!」

「は、ははははいっ!?」


 今、いま、現在いま! 目の前にアクセル様がああああああ……ああ、やっぱり夢だ、これ。

 うん。夢なら覚めないで。

 永遠に眠っていたい♡


 って、マジで永遠に眠ってしまった!?

 階段から落ちて永眠!?

 これって流行りの転生ってこと!?


 ひゃっほーい!

 もう会社行かなくていいんだ!

 しかもリアルアクセル様のご尊顔を間近で拝見できるなんて。


 やだ。私ってば、どれだけ徳を積んだの?

 レティシアの記憶もあるけど晴乃の記憶もある。

 奇跡の融合! 転生合体! レティシア・晴乃爆誕!

 いえーい! 転生万歳!


 ところで……『王子様♡』にレティシアって、いたかしら?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る