00-10 突発の空対空

 機首を持ち上げる。ズシリと身体に重力がのしかかる。それを無視し高度を上げる。耐Gスーツから加圧がかかる。


「くっ……!」


 思わず漏れたうめきと同時、足の下を飛翔体が通過する。間一髪で、長射程ミサイルを回避した。


 正面から飛来する敵を確認するため、機体を右に捻り、背面飛行へと移行。瞬間、頭上を機影が飛び抜ける。


 ミサイルと見紛うほどの直線的なボディ、鼠色と翼端は黄色。操縦席は——付いていない。


Yogヨグ-25——イエロースワロー! 無人機だっ!」


 無線で仲間に伝達する。


邀撃ようげき機だ。各機警戒!]

〈現行最速機かよ、クソ。えらく用意がいい……〉


〈最高マッハ4のバケモンだ! ヒット・アンド・アウェイで来るぞ、気を付けろ!〉とクランプ隊長が勧告。次いで〈ヴァルチャー3はヴァルチャー2と二機編成エレメントを組め! ヴァルチャー4、テメェは俺の後ろに回れ!〉と指示を飛ばす。


 東へ飛び去った二機のスワローが、大きな大きな旋回機動を描き、俺の機の警戒アラートが再度鳴る。


『ミナト、敵機に対して垂直飛行を』


 フォーラのアドバイスを受け、空に対してロール角45°で機首上げピッチアップ、右旋回しつつ降下。スロットルを前に押し、急加速。意識が離れそうになるのを、必死に引き留める。


 背後を寸前でミサイルが過ぎ去った。心臓が悲鳴をあげている。寿命が縮みそうだ。


[地上友軍から対空支援。各機、射線に注意]


 AWACS空中警戒管制機の無線伝達から間もなく、下方から噴煙が昇る。回避機動を取ったツバメ達が、減速し散り散りになった。


特殊兵装発射FOX1


 隊長の声。セミ・アクティブ・ホーミング・ミサイルの発射コール。視認する余裕は無いが、すでに敵を捕まえたのだと分かった。


 敵機のひとつがフレアを散布するのが見えたが、無駄だと分かったのか機首を上げようと動く。


〈遅ぇよ。真っ直ぐ堕ちな〉


 彼の冷淡な宣告に従うかの如く、空中炸裂。火を噴きながら、きりもみ回転して墜落していった。


[ナイス・キル。敵機バンディット、残1]


 つがいを失った燕が、自機の目の前を横切ろうとする。


 ——いける……!


 左手を引いて急減速し旋回、敵の背後にけた。ジェット・エンジンの熱源を捕捉ロックする。だが敵も、振り払おうと機体を下へ——


「っ、発射FOX2!」


 ボタンを押し込む。右翼下から、白煙が伸びていく。しかし、敵の回避が一歩速かった。すんでの所で、追尾を振り切られた。


 くそ、逃して——


〈ナァイス・アシストォ! 発射FOX2ッ!〉


 昂揚した声。頭上から降下する尾翼の白星。爆発音が耳に届く。振り返り、バイザー越しに見えたのは、回避機動そのままの姿勢で黒煙を上げる機体。


 ——コイツ、上空からチャンスを狙ってやがったな……?


 思わず苦笑した。


[撃墜を確認。オール・クリア]

〈やるなヒヨコ。お手柄だ〉

「俺のおこぼれですよ、隊長」

〈盗ったもん勝ちだよ、海坊主く〜んッ!〉

〈もう、すぐ調子に乗るんだから……〉


 各々が好き放題に言い合うせいで、通信は大混線していた。




 ★=——  ★=——  ★=——

【オリジナル機体解説コーナー】

Yog-25

:現行最速の戦闘機。通称イエロースワ黄色い燕ロー。

 円筒状のボディに空気抵抗を最小限まで

 抑えた小さな主翼と尾翼により、

 最高時速5,000kmをゆうに超える音速機。

 急接近と長射程ミサイルによる先制攻撃で、

 反撃する間を与えない戦術を用いる。

 旋回や格闘戦は不得手なため、

 減速が必要な回避機動を強いられると弱い。

※モデルは『MiG-25』だが、通称名は

 『MiG-29(ラーストチカ)』から。

 ——=☆  ——=☆  ——=☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る