双曲のクロースター − 星を背負いて鳶は舞う −

下田 空斗🌤

【20X2年】★

初陣前夜

00-01 『始動』

 ——ビーッ、ビーッ、ビーッ!


「ああ、もうっ!」


 等間隔で鳴り続けるアラートに悪態をついた。

 操縦桿を強く引き寄せ、そのまま右に倒す。直後に急減速を入れ、螺旋軌道バレルロールによる回避行動。天蓋キャノピー越しに視界の天地がグルリと切り替わる最中で、右翼上方を掠めるように噴射炎が通過した。


 ——ビーッ、ビーッ、ビーッ!


「——ッ! 手加減しろっての!」


 思考放棄のボタン入力。欺瞞用のフレアを放出し、敵兵装の赤外線追尾を撹乱する。


 機体姿勢が水平に戻った所でスロットル・レバーを押し出す。次の行動に備えた加速。首を左右に振り回し、周囲の状況確認、敵機を捜索する。


「アイツめ、どこ行った——」

『ここです』


 返答と同時、頭上から火線が降り注いだ。弾丸が金属板を穿つ不快な音。視界が真っ赤に明滅する。


「だああぁぁっ! また負けたぁっ!」


 俺は座席から立ち上がり、メットを脱ぎ捨てた。


『ミナト。危険ですから立つ前にシミュレーション・ゴーグルを外すべきです』

「細けぇんだって、フォーラは!」

『フォーラじゃありません。アイファAIFAです』


 インカムを通じて、彼女は無感情に訂正した。


『正式名称は、AI For Aircraft航空機用AIです。その頭文字を取って——』

フォーラForaでいいじゃんか。別に名前つけちゃ駄目なルールは無ぇだろ!」


 何度か聞かされた説明を断ち切って反論すると『確かにルールにはありませんが……』と少ししおらしくなった。


「なんだァ? 仮想戦闘で負けた腹いせに口喧嘩してんのか、ミナトは!」


 小馬鹿にしたような笑いを含む声音で、俺の同期——リックが大股で歩み寄って来た。

 俺と同じ孤児院上がりの十七歳。面長で浅黄色の短髪、垢抜けない顔はソバカスだらけの男だ。


「誰が負けただなんて——」

『はい。シュミレートは私の勝ちでした』


 スピーカーに切り替えたフォーラの声が俺の言葉を遮る。心なしか誇らしげに聞こえた。


 ——コイツ、さっきの仕返しか!?


「ハッハッハッ! 口でも負けてんじゃねぇか!」

「うっせぇ! 何の用だよ!」


 リックは、まぁ落ち着け、と言わんばかりに手首をぷらぷらと振る。そしてすぐ、真剣な、それでいて不敵な笑みを浮かべた。


「ボスからの集合命令だ」

「編隊長が? って事は——」


 その表情と内容から、察した俺も口角が上がる。


「ついに——」

『初任務というわけですね』


 美味しい所をフォーラに持っていかれて、思わず喚き散らした。高笑いするリックに鉄紺色の頭髪を鷲掴みされ、俺は作戦室へと連行されたのだった。




 ★=——  ★=——  ★=——

【用語解説コーナー】

バレルロール

機首上げピッチアップしながら機体を横揺れローリングする事で、

 螺旋軌道を描いて飛ぶ回避機動。

 進行方向を変えず、かつ減速する事で、

 後方から迫る敵を躱しつつ前に出させる。

 だが敵機と距離があると追撃される場合も。

 横倒しのバレル側面を巻くロールような動きから。

 ——=☆  ——=☆  ——=☆

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