第6話 戦いはスマートに

 改装中の店の扉を蹴破ると、意外なことに中に人はいなかった。がらんとした店の中に、小綺麗な椅子とテーブルが並ぶ。店の前に転がる十数人を振り返り見て、これで全部か? と疑問を抱く。




「出てこいや、ゴラァ!」




 普段の話し方が多少スマートになった、とはいえ、根の性格が変わっているわけではない。隣で叫びを上げるミナトは、スマートとは程遠い本来の戦闘狂の様相で、躊躇も考察もなく中へ踏み込んでいく。やれやれ、とため息をつきながら、おれもその背に続く。




 ミナトが並べられたテーブルを蹴り倒して暴れまわっても、誰も出てくる様子はなかった。本当に誰もいないのか? と思ったが、おれは敢えて『隠密インビジブル』を解除しないでいた。確信があるわけではなかったが、そうしなければならない気がした。




 そのおれの本能への回答は、すぐに現れた。




 ミナトが店のカウンターの奥へと踏み込んだ瞬間だった。そのミナトの身体が店の中へと玉が弾かれたように飛んで返ってきた。周囲のテーブルを背中で押し倒しながら床に転がる。




 おれはミナトが入っていこうとした先を見た。店のバックヤードに繋がるであろう出入口から、身の丈3メートルに迫らんというような大男が姿を表す。いや、あの巨体は『非強化アンブーステッド』ではありえない、『強化ブーステッド』であることは間違いないので、性別は問えないか。




「なんだよ……いるじゃねえか!」




 ミナトは歓喜交じりに声を上げて身を起こすと、すぐさまその大柄へ向かって飛び掛かっていく。もう少し思慮というものをだな……




 大柄が室内を窮屈そうに前へと進み出る。ミナトはその腕に躊躇いもなく拳をぶつけていく。ミナトの拳が相手の腕を捉えた瞬間、小さな爆発が起こる。大柄の巨木のような腕が半ばまで肉をえぐり取られる。ミナトの『内装兵器インプラントウエポン』による『発火能力パイロキネシス』だ。




 だが、大柄は怯まなかった。というよりも、気にしている様子がない。もしかしたら『強化』の過程で痛覚を意図的に切断しているのかもしれない。血と皮下潤滑剤の混じり合った赤い、ぬるりとした液体を滴らせた腕を振り回して、ミナトに一撃を加えると、つい先ほどのリプレイかと思うような飛び方で、ミナトが今度は壁に叩きつけられて止まる。




 だが、それで簡単に引くミナトではない。むしろそうした相手であることに喜びを感じるタイプのドSは、さらに相手の肉体を破壊しようと飛び掛かっていく。




 まったく、スマートではない。




「……ったく」




 おれは姿を消したまま小さく息を吐くと、床を蹴った。




 ミナトが大柄の『強化』に次の破壊を促そうとした直前、おれは相手の無傷の側の腕を取った。手首と肘関節と肩関節を的確に狙って、おれの『内装兵器』のトリガーを引く。三本の雷撃が狙った部位を射抜く。




 見えない、聞こえない相手に受けた電流、しかもそれによって動かなくなった腕を見て、大柄が初めて動揺した。




「ミナト、脚!」




 おれの声にミナトが反応する。応じる言葉こそなかったが、ミナトは大柄の膝を蹴って重心を崩す。その様子を確認して、おれは大柄の腕を力任せに引っ張った。




 大柄が真新しいカウンターに突っ込み、破壊しながらその場に倒れた。

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