第9話 武器がない
「ここの二階だな」
おれたちを先導する黒服の男はポケットに手を突っ込み、いかにもなサングラスを鼻眼鏡にして、上目遣いでおれたちを見る。
「ここの二階の事務所に、うちのお客さんがいる。丁重にご挨拶してやりな」
男がそう言って、両手を大きく広げた瞬間、炸裂音が雑居ビルの間に響いた。男の広げた腕が目に見えない力に弾かれて、生き物とも思えない動きを一瞬見せた。
銃声。
その場にいた誰もがそう判断した時には、誰もが次の射撃を警戒して、車両やビルの陰に飛び込んでいる。おれも車両の陰に身を低くして留まり、周囲を見回した。音の方向を探り出すため、いま聞こえた音を『
上。
おれは目の前の薄汚れたビルを見た。その二階。男が客がいる、と言った、まさにその窓。銃声はそこから聞こえていた。
「撃て撃て!」
おれがその位置を見上げた時、ビルの中から複数の人の声がして、いくつもの銃口が窓から突き出された。このままここに留まれば、車両ごとハチの巣にされる、それほどの数の筒先に、おれは次の行動をすぐさま判断した。発砲が始まる前に、目の前のビルの入り口に飛び込む。
何百発という弾丸が押し寄せ、車両を薙ぐ。そうなれば案の定、車に防壁としての役割は務まらず、あっという間に穴だらけに、そして爆発、炎上した。
だが、おれはその姿を見てはいなかった。背中でその状況を感じ、振り返ることなく目の前の階段を登る。
「いい判断だ。ずいぶん場慣れしてんじゃねえか」
すぐ背後から、あの男の声が聞こえた。おれの後ろには、一緒に車に乗ってきた男たちが続いていて、先ほど銃撃を受けたはずの男も、平気な様子であのいかにもなサングラス面をおれに近づけてくる。何人か足りない気がしたが、いまの銃撃でやられたか、その場に留まる判断をしたのか。外からは銃撃戦の音が続いていた。
「丁重なおもてなし、ってえやつだ。丁寧に返してやらねえとな」
おれは何も答えず、階段を登りきる。
左手に伸びる廊下。その奥に、銃を構えた数人の姿。
おれは飛び出しかけた身体を退く。刹那、廊下の空間を銃弾が占める。雷鳴のような轟音が耳を塞ぐ。
「うちの借りもんで、よくもまあ丁重にやってくれるじゃねえか!」
サングラスの男が、手にした拳銃を廊下の壁から覗かせて応戦する。他の男たちも同じく応戦し、銃撃戦が始まった。
と、そこで気づく。
「おい」
「なんだ、いま忙しい、見てわからねえのか」
「おれにも銃をよこせよ」
「は?」
「は、じゃねえ、銃だよ、おれだけ武器がねえだろ、見てわからねえのか」
サングラスの男に食って掛かるが、男は応戦するに忙しく、ろくにこちらを顧みることはない。
おれだけ武器を与えられていないことに、いまさら気づいた。
銃弾飛び交うこの状況で、何もしようがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます