ゴーストキラー――クロス:ネクスト2――

せてぃ

Chapter.0

伝説の最期

第1話 明日はない

 おれたちに明日はない。




 ……もし、あるとすれば。







 あの〝戦争〟がこのトーキョーを変えたのは確かだった。それは『非強化アンブーステッド』であるおれにもわかった。ただ、何がどう、と言葉にするのは難しい。おれにはそれほどの学がないからだが、それ以上に、要因になった事象に比べて起こった変化が小さかったからだ、とも思う。




 魔都トーキョーを支配した犯罪組織『七同盟』その首魁全員の喪失。それは相互抑止という緊張が齎していた静寂と平穏を破壊し、魔都という呼び名にふさわしい混乱と抗争を生み出しはした。新たに勃興した犯罪組織が、旧来の七同盟の残滓を食い破り、あるいは飲み込み、次なる秩序そのものになろうと動き出した。それは大きな、あまりにも大きすぎる要因だったはずだ。




 だが、言葉ほどの波乱は、この街に訪れなかった。

 



 いや、おれたち『非強化』には訪れなかった、というべきだろうか。




『七同盟』の首魁をすべて葬った謎の暗殺者。




 その目的も、いずれの組織に属したものかもわからない者はいずこかへ消えた。生死はわからず、そもそもその存在自体があやふやだ。そんな状況が犯罪組織の、すなわち『強化ブーステッド』たちの動きを鈍くした。『七同盟』の二の舞になることを嫌い、明らかに恐れてすらいた。




 かつて『crus.クルス』という反『強化』組織を率いた、あの来栖耶麻人くるすやまとを彷彿とさせる、刀を武器とした剣士と、片腕の〝拳銃使いガンスリンガー〟それが『強化』たちの間で共通した恐怖の影のようだった。迂闊に目立ちすぎると、あの二人組が来るぞ、と、真剣な顔をして話し合う『強化』の姿は、まるで幽霊に怯える子どものようで、見ていて滑稽ですらあった。




 そして『強化』たちは『非強化』に手出しすることを恐れた。




 それは 『crus.クルス』が『非強化』で組織された集団であったからで、彼らが言う『あの二人組』が『crus.クルス』の関係者であるのなら、『非強化』を守ろうとする。つまりはそういうことなのだろう。




 あいにくと、おれはその『crus.クルス』という組織を知らない。この魔都がまだ完全に犯罪組織の自由都市となる前、その狭間で存在した組織だということ程度にしか聞いていない。それが事実だとすれば、その『非強化』の組織が存在したのは、十五年以上前の話だ。その頃に生まれ落ちたはずのおれには、知る由もない。




 ただ、『強化』たちもバカではない。『あの二人組』の目的が『強化』から『非強化』を守ることだとすれば、『非強化』を盾にすることもできるのでは、と考えるものが現れるようになった。非常に暴力的な考え方で、そうした考えの中で生きてきた犯罪者たちのいかにも犯罪者らしい解決方法だとおれも思った。




 思った時には、自分がその『盾』にされていた。




『七同盟』の解体後、勢力を増した新興組織。そのひとつが魔都の下層、 『旧市街』と呼ばれるスラムに現れ、おれたちを手当たり次第に攫って行った。目的は自分たちの仕事におれたちを武装させて同行させることで、いわば『お守り』である。『強化』犯罪組織同士の抗争が起これば捨て駒に使えるし、『あの二人組』の襲撃を受ければ盾にできる。おれたちの命なんて、安いものだ。




 おれたちに明日はない。




 ……もし、あるとすれば。




 この状況から脱することがもし、あるのだとすれば、それは『あの二人組』がおれを盾として使う犯罪組織を襲い、『強化』構成員全員を抹殺してくれた時だけだ。




 毎日、同じことを思いながら、古びた自動小銃を担ぐ。『強化』が唯一、おれに与えた武器。こんなものでは『強化』を殺すことはできず、かといって全くの抑止力にならないわけでもない。実に絶妙な采配だ。




 今日は埠頭での取引が現場だそうだ。



 

 本当にそんな『二人組』がいるのならば、訪れてくれはしないものか。

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