悲哀の資格

干し焼き芋

事件発覚

第一話 事件

 ピンポーンピンポーン――


「おーい、楠! お前遅すぎだろ。今何時かわかってんのか?」


 LINEは未読無視。電話も三回かけたがすべてつながらなかった。

 玄関の前で大声を出し、耳を澄ましてみても、中から物音はしない。


「ったくよ。おい! 朝だ朝だ! 起きろ~」


 しばらく待ってみるが、やはり反応はない。彼は、どれほど深い眠りに落ちているのだろうか。


「あ~もう! なんなんだよ。早くしてくれ!」


 ドンドン。ドアをたたいてみるが、依然として静寂を返してくるのみだ。

 このままでは埒が明かないと思い、ゆっくりとドアノブへと手をかける。まるで犯罪をするかのようだと思いながら。ドアノブは――回った。鍵は締まっていなかったようだ。


「入るぞ~。ったくよ。俺をいつまで待たせる気だよ。おじゃましまーす――っ!」


 玄関を開けると、何やら異臭が漂ってくる。鼻の奥までねっとりと包み込んでくるよな甘ったるくも刺激のある臭いだ。もしかしたら、彼になにかあったのかもしれない。そうであれば大変だ。すぐに救急車を呼ばなければ。


「おっ、おい! 楠! 大丈夫かぁ!!」


 ずかずかと入り込み、玄関から廊下を小走りで駆ける。一歩進むたびに異臭のにおいは強くなり、鼻がひん曲がりそうだ。そして、たどり着いたリビング前のドア。全速力で、ドアを開ける。


 ――鼓動が早くなる。額に汗がにじむ。息が少し荒くなる。自分は、現実ではない何かを見てるのではないか。本当に、自分が犯罪者になってしまったのではないかと錯覚する。


「……」


 驚きと恐怖、様々な感情が混濁するあまり、もはや言葉も出てこない。

 楠はうつぶせに眠っていた。肌を青色に染め上げ、周囲を飛び回る小さな虫に彩られ、カーペットにまでもその影響力を及ぼしていた。



八月二十三日、楠龍也、死亡。第一発見者は彼の友人である山下光司。推定死亡日時は三日前。

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