上流家政戦闘組織"Perfect Clearing"〜掃除から護衛まで庶民バイトが承ります〜

茶柱

第一章 〜新入生交流会 編〜

第1話

「今、何時だ……」


 枕元の充電器に差し込んであるスマートフォンの画面を見る。表示されている時間は午前6時40分。


「まだ寝られるな……」


 そう呟き二度寝を決め込もうとした時に部屋の外から声がかけられた。


「夏輝君?起きてる?」


 その言葉と共にドアを開けたのは、幼馴染の神崎 雅。黒いロングストレートの髪に整った顔とバランスのとれたプロポーション。そして誰に対しても丁寧な対応。学校では男女問わずの人気者である。誰が呼んだか大和撫子。告白された回数も二桁に昇るらしい。

 そんな美少女幼馴染に世話されてる冴えない男が神山 夏輝。そうオレである。


「後、5分……」


「ダメ」


 彼女はベッドに近づくとオレの体を揺する。しかし負けじとオレも二度寝を決め込む。


「はぁ……仕方ないわね……おいでラッキー!」


 その一言の後、階段を登ってくる特徴的な足音がする。これちょっと不味いのでは……?そう感じたオレは起きようとしたが一歩遅かった。


「待て……!」


「ラッキー!GO!」


「んごふぅ!」


 突如体にのしかかる重量感。目を開けてみれば視界に入ったのは、犬の顔だった。


「おはよう……ラッキー……とりあえず起きたから降りてくれない……?」


 そういって撫でてやるとラッキーは顔を舐め回してくる。


「ラッキー。スタンバイ!」


 雅が命令するとすぐさまラッキーはあせびの右側にスタンバイする。


「起きた?」


「起きたよ……ラッキー使うのは反則じゃねぇか?」


「最初から自分で起きてくれればこんなことにはならないのよ?次はライラックにも手伝ってもらうから、ちゃんと起きてね」


全くもって正論である。

 そう言うと雅は階段を降りて行った。ちなみにラッキーとライラックというのはウチで飼っている犬である。ラッキーが雌のゴールデンレトリバー。ライラックが雄のシェパードである。両親が不在になりがちな我が家の番犬的存在である。2頭とも公安系職の父親によってかなり厳しく躾けられており、薬物、火薬、過剰な血の香り、そして特殊な金属臭に著しい反応をする。それからライラックは家族である俺より雅の命令を重視する傾向がある。解せぬ。

 制服に袖を通し、いつも着ているパーカーとブレザー、リュックサックを持ってリビングに向かう。

リビングには、ラッキーとライラック。それから雅ともう1人、明るい茶髪の女性がいた。


「遅い。さっさと起きて降りてきなさい。朝ご飯が冷めちゃうじゃない。愚弟」


 そうやって朝から俺に檄を飛ばすのは2番目の姉である 神山 玲 だった。


「悪かったよ。それにしても珍しいな。姉貴がいるの。今日生徒会は?」


「今日はナシ。放課後に部長会議があるから」


「ふ〜ん……どうでもいいけど」


 空返事をしながら席に着く。


「あ、じゃあ雅も帰り遅くなるのか」


「うん。一応書記だから」


「待ってようか?」


「ううん。玲さんと帰るから大丈夫」


「そっか。じゃ頑張って」

 

「興味なさそうね」


「だって関係ないし」


 手を合わせて挨拶をした後、食事。基本的にはおにぎりと味噌汁なんかで済ませることが多いが雅が来ると少し変わってちゃんとした朝食が出てくる。


「関係ないわけないわよ。今日の放課後暇でしょ?」


「雑用ならやらんぞ。そもそも生徒会の所属じゃないのにこき使うなっての」


「生徒会副会長と生徒会書記が身内にいることを恨みなさい」


「雅は身内じゃねーだろ」


「何年一緒にいると思ってんの?家族と同等よ」


 そういうと玲は、空のグラスに手を伸ばした。しかし掴み損ねたのかテーブルから落下してしまった。そのままグラスは、床に落ちて割れるかと思われたがそうはならなかった。俺がキャッチしたからだ。


「よっ……と。ボーっとすんなよな」


「ありがとう。それにしてもよく掴めたね。アンタ昔から動体視力と反射神経は良かったけど。最近ますます敏感になってない?」


「そうか?自分ではよくわからん。ごちそうさん」


 2人よりも先に食べ終えたので食器を片す。と言っても軽く濯いで食洗機にぶち込んで終わりだけど。2人が食べ終えるまでラッキーと戯れる。短い時間で得られる癒しの時間だ。なおライラックは雅の隣にスタンバイしている。忠犬め。


「食い終わったら食洗機にぶち込んでおいてくれ」


「はいはーい。そういえばアンタ最近バイト行ってないわね?なんで?クビにでもなった?」


「ちげーよ。シンプルに仕事がないの」


「夏輝くんのアルバイト先ってどんな所だったっけ?」


 食べ終わった食器を食洗機に入れながら雅が聞いてきた。依然彼女のそばにはライラックがいた。


「家事代行サービス」


「家政婦かぁ。確かに仕事はあまりなさそう。そういうのってお金持ちの人達が雇うイメージあるものね。確か経営してるのは夏輝くんの伯母さんだっけ?」


「そう。まぁ従業員は俺と伯母さん含めて4人だけだけどな」


 そう答えながらチラリと時計を見れば7時45分を指していた。


「なぁ、俺はいいんだけどさ。姉貴達は遅刻したらマズイんじゃねーの?そろそろ出たほうがいいかも」


「えっ!?もうこんな時間!急がなきゃ」


「マジか。気付かなかった」


 洗面を済ませ、食洗機のスイッチをオンにする。その後、必要な荷物を持ち玄関に向かう。後ろから2人と2頭の足音がフローリングの廊下に響く。


「ラッキー、ライラ、留守番を頼む」


「それじゃよろしくね。2人とも」


「行ってくるわね」


 ラッキーとライラを撫でた後、粘着クリーナーで服に付着した毛を取り除く。どこにアレルギー持ってる人がいるかわからないから個人的なマナーだと思ってる。


「ほら、姉貴と雅も。後ろ向け」


「ありがと」


 2人が出た後、再度ラッキーとライラに告げる。


「それじゃ行ってくる。家を頼むぞ」


玄関に2頭の元気な鳴き声が響いた。

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