底辺配信者ですが戦闘は専門外なのでダンジョンの中でスローライフを送りたいと思います ~ドラゴンと同居してますがワンパンできるので安全です

KMY

第1章:戦闘は専門外なので、ダンジョンの中でスローライフを送りたいと思います

第1話 〒140-0014 東京都品川区大井8丁目 大井ダンジョン中層5区ボス部屋

001 底辺配信者

「しずくのまったり生活通信、これでおしまいです。見てくれてありがとう! それではまた明日。ばいば~い!」


彼女――七海しずくは、スマホに向かって手を振る。


彼女の挨拶を聞いてくれる人はいない。

完全に独り言だった。


ありもしない温かい声を想像しながら、配信を切る。


<しずくのまったりスローライフ>と名付けられたその配信は、毎週夜に約30分配信される。

しずくの日常生活、料理や掃除、家具作りなどを軽く紹介する、日記のようなチャンネル。

クッション、畳、ふすまのある落ち着いた和室空間を背景に、ゆとりを忘れずに。


「‥‥配信、やめようかなあ」


座布団に正座していたしずくは、天井を見上げながら長いため息をついた。

それもそのはず、この配信のリスナーはいつも1人いるかいないか。奇跡的に2桁にちょっとで届きそうな日もあるが、0人の日のほうが多い。誰もいない日なんて、つらくて泣きそうだった。


そもそも日常生活の配信メインというコンセプトが間違っていたんじゃないかな。

そんなものは人気者が合間にやることで、ジャンルとしては成熟していない。

しずくは学生にしてDIYや自給自足が好きだった。立派な趣味として尖っているから悪くはないと思った。結果がこれだ。


ここが<どこにでもある何の変哲もない部屋>なのがいけなかったのかなあ。

長い黒髪を伸ばした少女と和室の組み合わせって、あまりに地味なのかなあ。

同じような動画は他にいくらでもある。それに埋もれてしまった。


何かテコ入れが必要かもしれないなあ。いっそゲーム配信でもやる?

でも、日常やDIY・自給自足をメインでやりたいから、ゲームがメインになるのもよくないなあ。


正直、1年も配信を続けた結果がこれなのだから、方向性を本格的に悩み始めていた。


そんな時、この<自宅>の外からモンスターの咆哮が聞こえる。


「ああ、またここに挑む人が出たんだあ、配信終わったあとでよかったね」


(ここも最近人が増えてきたなあ。うるさいしそろそろ引っ越しも考えないと)


この壁の向こうでブレスが地面に突き刺さったことによる地響きを全身に感じながら、しずくは腕をぴんと伸ばして小さくあくびをして、夕食の準備をすべく立ち上がった。

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