第26話  金に見えない女を求めて。

「実は私、レナード様を主人公とした小説を書いたのです。お目汚しになるかもしれませんが、ご所望であれば」

私は少し緊張しながら自分の自作の小説『金に見えない女を求めて。』を震える手でミーア様に見せた。


彼女がガチ恋勢ならば、この小説の見方は大変厳しくなる。

私は女子校生活で、決して会えない憧れの男へのガチ恋勢との接し方を学んだ。


私はこの30万字にも及ぶ長編を書き上げるときに、そういった人間が怒らないために細心の注意を払ったつもりだ。


ガチ恋勢は創作に対する見方が非常に厳しい、それでもこの小説の存在が必要と感じたのはイザベラができる女だと思わせたかったからだ。


中学時代、私は2000字の読書感想文を書くのさえ苦労していた。

しかし膨大な孤独な時間を過ごした結果、世界の創造主になれる能力を手に入れたのだ。


自分にできないことをやってのける人間に対してのリスペクトが私は欲しかった。

12歳で長編の小説を書けるほどの孤独の時間を過ごしたものはいないと見越したのだ。


「はぅ、レナード様の苦しみが伝わってくるようです。この小説は書籍化はなされないのですか?」

私は一応笑いあり、涙ありの展開で書いたつもりだが、ガチ恋勢のミーア様には涙しかない感動のみが伝わったようだ。


「そのようなことは恥ずかしいです。ただ、私は仲の良い友達に読んで欲しいだけなのです」

この小説を読むには、私と接しなければならないということに価値がある。


私は中学時代、仲良しの子に自作のマスコットを名入りで渡したり交換日記をしたりしていた。

それらは女子達の結束を高めること繋がったりしていた。

自分がやって成功したことを、貴族風にアレンジしたがうまくいってよかった。


「世界中で愛され、何年も読まれるような作品をここで終わらせてしまうのですね。レナード様が誰にも理解できない苦しみの中におられただなんて誰が想像できましょう」

ミーア様は止まらない涙の中、必死に想いを伝えてきた。


実際のレナード・アーデンは老後資金を溜め込んだ老女のみもターゲットにして金を搾り出し、冥土の土産に良い夢ありがとうと言わせてしまうような苦しみとは程遠い世界一のサイコヤローだ。


しかし私はとにかく苦しむイケメンとして彼を描き、彼が求め続けた真実の愛を与える女の子としては誰もが自己投影できるよう平凡な子を描いた。


ミーア様程のガチ恋勢が受け入れてくれるならば、この小説は小道具として使えそうだ。

ガチ恋勢は少しでも気に入らない表現があると暴れ出す、非常に危険な人種だが仲間に取り込めれば無敵なのだ。


「ミーア姫は泣き顔も大変可愛らしいですね。必殺仕事人イザベラがメイクのお直しを致します。実は今日入寮予定のララア・モンステラ様が本日誕生日なのです。この部屋で彼女を祝うパーティーをサプライズで行えればと思っています。もしよかったら私の企みに協力して頂けますか? 」


私は入寮してくる人間はその日のうちに制圧するつもりだ。


入学式の日に新入生である貴族令嬢の3分の2に当たる寮生がピンクのピンをつけていれば、フローラ様に気がついてもらえるかもしれないと考えたのだ。


散々迷惑をかけたであろうフローラ様に強引に自分から近づくのは失礼だ。

彼女がイザベラに興味を持つように、私は仕掛けていこうと思っていた。


「もちろんです。私は人見知りでアカデミーで友達ができるなんて思っても見ませんでした。イザベラ様と同室になれて本当によかった。ララア様をびっくりさせましょうね。寮生活って楽しいものだったのですね」


私はミーア様が完落ちしたことを確信した。


協調性が売りの私はいつも女子とは上手に関係が築けた。

しかし、男からは都合良い道具のように扱われ弄ばれた。


「ミーアと呼んでも良い?貴族令嬢は外では360度いつも見られて品位を保つだけでクタクタになるよね。私はこの寮だけはみんな適当に過ごせる特区にしたいの。私、外ではこれから完璧な令嬢として過ごすと誓うよ。だから、中では休ませてほしい。私のこともイザベラって呼んで。思ってることなんでも言ってくれると嬉しい。我儘でしょうもないって注意してね」


私は寮を特区にすることでみんなの結束を高めようとした。


実際、CAも仕事中は品格があるが、裏ではタバコをスパスパ吸っていた。

外で品位を保ち続けるストレスを私は知っていて、寮に住む子達はそのことにストレスを感じていると予測したのだ。


「イザベラ、私の方こそよろしく。」

私はミーアを完落ちさせたと確信した。


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