第2話
第三章 真実の夜
実は美沙は、失踪したとされる夜、恋人の石川と激しい口論になっていた。
石川は美沙の貯金を狙って近づいた男だった。美沙が真実に気付いたのは、彼の携帯電話に入っていた他の女性とのやり取りを見た時だった。
「お前、俺の何を知ってるって言うんだ!」
石川は怒りに任せて美沙を殴った。美沙は頭を強く打ち、そのまま意識を失った。慌てた石川は、美沙の体を車に運び、都内から離れた森に埋めた。
その一部始終を、ルチルは水槽から見ていた。
金魚は一般的に記憶力が短いと言われているが、ルチルは違った。美沙への深い愛情と、目の前で起こった惨劇への怒りが、小さな体に強烈な記憶として刻み込まれた。
美沙がいなくなった水槽の中で、ルチルは復讐を誓った。
第四章 特別な力
石川は数日後、証拠隠滅のために美沙の部屋に侵入した。合鍵を使って忍び込んだ彼は、キッチンに直行した。あの時使ったフライパンを処分するためだった。
しかし、ルチルには不思議な能力があった。
美沙は生前、ルチルに変わった餌を与えていた。彼女が化学メーカーで働いていた関係で、研究用の特殊な化合物を少量混ぜた餌を作っていたのだ。それは魚の健康に良いと聞いた実験的な試みだった。
長年にわたってその化合物を摂取し続けたルチルの体内では、奇跡的な変化が起こっていた。特殊な酵素が生成され、ある化合物を分泌できるようになっていたのだ。
美沙への愛情と復讐心が、ルチルの本能を研ぎ澄ませた。石川が部屋に入ってくるタイミングを、じっと待っていた。
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