第24話 『遥の覚悟、満たされる身体』

 九月中旬。夏休みが終わり、新学期が始まって二週間が経った。佐々木梓との、そして小林遥との「初めての夜」から数日。西山和樹の心は、未だ言葉にできない感情の渦の中にあった。身体が触れ合うことでしか得られない深い繋がり、そして彼女たちの内面から湧き出るような快感と安堵。それは、彼の想像を遥かに超える、濃密な体験だった。同時に、和樹は、自分が彼女たちの「高校時代の特別な思い出」の、あまりにも重要な一部になってしまったことの、重い責任感を自覚していた。


 その日の放課後、和樹はバレー部の練習を終え、部室で着替えていた。最近は、部活引退後も、自主練習や受験勉強の合間に、時折部室に顔を出すことがあった。そこへ、同じく練習を終えたらしい山本結衣が、汗を拭きながら入ってきた。

 「和樹くん、お疲れさま!最近、練習どう?」

 結衣は普段通り、快活な笑顔を向けてきたが、和樹は彼女の瞳の奥に、何か探るような視線を感じ取った。和樹と梓や遥との関係が、彼女たちの間で噂になっているのだろうか。

 「ああ、お疲れ。まあ、ぼちぼちだな。結衣も、受験勉強とバスケで大変だろ?」

 和樹が言うと、結衣は少し身を寄せた。

 「うん、大変だよー。もう、身体も心もボロボロ。和樹くんにマッサージしてもらいたいなぁ、ってずっと思ってたんだ!」

 結衣はそう言って、和樹の腕を掴み、その指先で和樹の腕の筋肉をなぞった。その視線は、和樹の身体の奥を探るようだった。和樹は、彼女の普段の開放的な態度とは違う、より直接的な誘いを感じ取った。

 「あ、ああ、いいよ。どこが特に辛い?」

 「やっぱり全身!特に足と腰。バスケで酷使してるから、もう限界かも」

 結衣はそう言って、和樹の顔をじっと見つめた。その瞳には、かつてないほどの期待が宿っている。和樹は、彼女が単なる疲労回復以上のものを求めていることを、本能的に察知した。


 和樹は、結衣を自分の自宅へと招いた。梨花や楓とは異なり、結衣は遠慮なく和樹の誘いに乗った。リビングに通されると、結衣は持参したバッグから、色鮮やかな水色のブラトップと、同色のボクサーショーツを取り出した。

 「ねえ、和樹くん。もっと、もっと気持ちよくなりたいから、これに着替えてきてもいい?」

 結衣の言葉は、率直で、何の含みもなかった。彼女は和樹の返事を待たずに、そのままバスルームへと向かった。その潔さに、和樹は思わず苦笑したが、同時に胸が高鳴るのを感じた。


 バスルームから出てきた結衣は、鮮やかな水色のブラトップと同色のボクサーショーツに身を包んでいた。彼女の健康的な身体にぴったりとフィットしたスポーツウェアは、鍛えられた筋肉のラインを際立たせ、引き締まった腹部や、へそピアスの小さな輝きが和樹の視界に飛び込んできた。彼女の身体からは、スポーツウェア独特の素材の匂いと、彼女自身の活気に満ちた体臭が混じり合って漂ってくる。結衣はリビングのソファに横になり、和樹を見上げた。その瞳には、日中の太陽のような輝きと、どこか誘惑的な光が宿っている。


 和樹は深呼吸をし、緊張した手つきで、まず結衣の脚のマッサージから始めた。太ももからふくらはぎにかけて、和樹の指が優しく、しかし確実に筋肉の張りを捉えていく。彼女の脚は、鍛え抜かれているだけあって弾力があり、和樹の掌に吸い付くような感触だ。

 「んんっ……そこ、気持ちいい……」

 結衣の口から、甘い吐息が漏れた。和樹は、彼女の太ももの内側へと手を滑らせていく。ブラトップの裾から、柔らかな肌が露わになっている。そして、鼠径部のリンパ節を丹念にマッサージし始めた。バスケで酷使される下半身のむくみや冷えを解消するためだ。

 「あっ……ひぅっ……和樹くん……そこは……!」

 鼠径部に触れた途端、結衣の身体が大きく跳ねた。彼女の口から、これまで聞いたことのない、甘く、そして抑えきれないような喘ぎ声が漏れる。和樹の指先は、鼠径部の柔らかな皮膚の下にあるリンパ節を優しく刺激し、彼女の身体の奥深くに、波のような快感を引き起こしているのが分かった。結衣の頬は真っ赤に染まり、瞳は潤んでいた。

 「和樹くん……もっと……そこ……お願い……」

 結衣の声は、懇願するように和樹に迫った。彼女の身体が、快感に身をよじる。和樹は、彼女の肌から漂う、興奮した体臭が、部屋中に満ちているのを感じた。


 次に、和樹は結衣の背中と腰のマッサージに移った。彼女はうつ伏せになり、ブラトップとショーツ姿のまま、身体を和樹に預ける。和樹は彼女の背骨の両脇から、しなやかな腰のラインに沿って、ゆっくりと圧をかけていく。ブラトップのサイドベルトが肌に当たる感触、ショーツのゴムのラインが食い込む臀部の感触。和樹は、彼女の健康的な身体が、マッサージによって官能的な反応を示していることを、はっきりと感じ取った。

 「ねえ、和樹くん……」

 結衣が、途切れ途切れの声で囁いた。

 「私、バスケ、大好きなんだけど……受験で引退するの、すごく寂しいの……。和樹くんのマッサージしてる時だけが、何も考えずにいられる時間なの……」

 その言葉には、彼女のバスケットへの情熱と、受験による引退への寂しさ、そして和樹への深い依存が混じり合っていた。マッサージの快感が、そうした複雑な感情からの解放となっていることを、結衣は無意識に表現していた。

 「和樹くんしか、こんなに私を気持ちよくしてくれないんだもん……」

 結衣の声は、普段の快活さとはかけ離れた、甘く、そしてどこか切なげな響きを帯びていた。


 マッサージを終えた結衣は、ぐったりとソファに横たわった。その表情には、極度のリラックスと、どこか満たされたような、恍惚とした色が宿っていた。

 「和樹くん、本当にありがとう。もう、全身がふわふわする……」

 結衣は潤んだ瞳で和樹を見上げ、その視線は、彼への深い信頼と、性的な期待が入り混じったものだった。

 「どういたしまして。少しは疲れが取れたか?」

 「うん、すごく。……ねえ、和樹くん……また、いつでもお願いしてもいいかな?今度は、もっと、もっと……」

 結衣の最後の言葉は、和樹への甘えたような要求と、より深い関係への誘いを明確に含んでいた。和樹は、彼女の開放的な性格が、マッサージの深化を促し、そして彼自身の欲望をも刺激していることを実感した。この関係が、初体験へと向かうのは時間の問題だと、和樹は確信した。

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