第8話 春のはじめの 雨にあらずや③ 4月14日

 帰路を辿る頃には日が沈んでいた。

 誰もいない道を一人歩き、一息つく。

 放課後に皆でどこかへ遊びに行くような経験は中学時代にはなかった。そもそも寄り道事態が校則で禁じられてたし。


 少し大人になったような、世界が広がったような。

 一人では味わえなかったであろうそれに、多少の気疲れをしてでも他者と過ごすことで得られる尊さを改めて確認する。


 始まったばかりの高校生活。折角ならば楽しく過ごしたい。

 そのために友だちは欠かすことが出来ない。

 一人で過ごすのは好きだけど、それはあくまで帰属できる集団があってのこと。

 そんなに強くない私にとって、孤独は耐え難い。

 賑わう周りの中で、一人時間を費やすのはとても辛いと思う。周囲から蔑まれてるのではないかと強迫的になって、周りに溶け込めない自分を責めて、溶け込ませてくれない周りを憎んで。

 

 想像しただけで息が詰まる。

 例えばそれが一日二日なら耐えられるけど、毎日続けば私は間違いなく学校から足が遠のくだろう。


 だからこそ努力をしてでも人と溶け込む必要があるのだ。

 難しく考えればそんな感じで、単純に考えれば人と話したり遊んだりするのが普通に好きというのもある。

 だ から、まぁ、それなりに。友だちを大切に出来たらいいなぁなんて、そんなことを実感できた一日でしたー。で、終わらせてもいいんだけど。


 心の底から満足しきれず、どこかに引っ掛かりを覚える。

 こんがらがった糸くずみたいなそれを紐解けば、校舎を出るときに抱いた罪悪感が蘇ってくる。その先端には先輩がいた。

 仮入部期間だから部活に必ず行く必要はない。確かにそうなんだけど。


 私の場合、部活というよりは一対一の関係。

 どうやら今まで孤独を選んできたらしい先輩はどういう訳か私を選んで、そして恐らく今日も私を待っていた訳で。


 やや軽率だったかなという自責の念と、いやでも元々先輩に半ば強引に引き込まれたんだしと、自分を庇う念が半々。

 次に先輩と会うとき、第一声はどうしようとか色々と考えあぐねて。

「……とりゃ」

 足元に転がっていた石を軽く蹴り飛ばす。軽い音を立てて転がって、夕闇に紛れてすぐに見えなくなる。

 取りあえず月曜日の私に任せるのだった。

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