【本編完結】このTS聖女、魔法少女につき──俺の理想の変身ヒロインってやつを見せてやる!
しまえび
第1章:聖女の目覚め
俺は健全なネカマです
「今日も私の配信に来てくれてありがと〜。お兄ちゃんたち、大好きだよ♡」
自室のPC前。俺は今日も元気にネカマ生活を堪能している。
別に女の子になりたいわけじゃない。
女の子として会話するのが、めっちゃ楽しいっていうだけだ。
——俺の名前は
高校2年、17歳。高校生活の半分はネカマ活動に捧げ、女の子として振る舞うための研究に余念がない。明るく元気な好青年(自称)。
SNSやボイスチャット、配信アプリで“それっぽい女の子”を演じることに全力を注ぐ、こだわりと美学を持ったロールプレイヤーだ。
(ふー、今日も可愛いムーブうまくいったな。ちょっとあざとすぎたかもだけど、そこも込みでキャラだし……)
配信を終えて、ペットボトルのお茶を一口。
画面の前には、びっしりと埋まったメモ帳がある。そこには日々研究している“理想の女の子像”や“言葉遣いバリエーション”がまとめられていた。
「よーし、次はどんなキャラ作ろうかな。今度は清楚系で攻める? それともついに、昔から憧れていた魔法少女ロールをやっちまうか……」
鼻歌交じりにパソコンを操作していた、そのときだった。
——ピシィッ。
「……ん?」
部屋の空気が、一瞬で変わった。
モニターが乱れ、蛍光灯がチカチカと点滅する。
そして次の瞬間、天井から眩い光の柱が——
「って、え!? なにこれ!!? ……え、リアルだよな!? 俺、まだ死んでないよな!?」
思わず立ち上がる。だが、間に合わない。
足元から巻き起こる風。空間がねじれ、視界が崩れ——
「聖なる魂よ……どうか、我らをお救いください……」
「待ってくれ! 俺の楽しいネカマ生活があああああああああ!!!」
光に飲み込まれた最後の記憶は、自分でも意味不明な絶叫だった。
* * *
——落ちるような感覚だった。
視界は真っ白。重力も、音も、温度も、何も感じない。
ただ、浮かんでいた。意識だけが、どこか宙にあるよう。
「……やっと見つけました」
声がした。
優しくて、でも、空間すら震わせるような深みのある声。
そこに立っていたのは、白い衣を纏った一人の少女。
いや、少女の像のような、透けて今にも消えそうな存在だった。
「私は、この世界でかつて“聖女”と呼ばれていた者の残滓です。
世界は今、崩れています。祈りの力ではもう、修復しきれないほどに」
「……えっと……なんで俺……?」
気づけば、俺はその“何か”と向き合っていた。
身体の感覚もなく、でもはっきりとわかる。この存在は、本物だ。
「あなたには、いくつもの顔がありますね」
「多種多様な人格の使い分け、可憐な言葉遣いや演技、見知らぬ誰かになりきるための努力——」
「それ、ネカマって言うんですけど……」
「いいえ、それは“他者を理解しようとする心”です。
演じて、真似をして、形にすることは、最も尊い祈りの一種です」
はぁ!?と思いながらも、その言葉が妙に胸に残った。
俺が今までやってきたのは、ただの趣味だった。
でもそれを——誰かを救う力だと言う。
「どうか、あなたの心を、聖女として、この世界に貸していただけませんか」
「……マジで、俺でいいのかよ……?」
「あなたは他者の心をなぞり、言葉を模し、存在を構築してきた。
それは、誰かに祈りを届ける“聖女”の本質に、とても近いものです」
真顔で言われると逆にこそばゆい。でも——わかる気もした。
俺はずっと、誰かになろうとしてきた。
見ず知らずの誰かを楽しませるために、“女の子”を演じてきた。
「……ま、やってみるか。俺、けっこうそういうの乗っかるの得意だしな」
「ありがとうございます。では、あなたを“器”へとお通しする前に——」
残滓の手がすっと差し出される。
「1つだけ、“あなた自身の願い”を特典として叶えましょう」
「……ほう?」
「あなたの魂は神域に触れました。
その影響により、1つだけ、この世界に持ち込める特異性が与えられます。
“願い”の形で。制約内であれば、自由に」
急に来たぞ、転生特典タイム!
願い。ひとつだけ。今、ここで選べと?
(……いや、俺は別にハーレムが欲しいとか、誰かに復讐したいとか、そういうのは……)
けど、1つだけ、ずっと夢だったことがある。
「じゃあ……変身ヒロインになりたい」
それは、昔からずっと憧れてた存在だった。
テレビの中で輝いてた女の子たち。
キラキラの衣装、舞い上がる髪、空を裂く魔法。
あれに心を持ってかれて、それからずっと、俺の中であの世界が残ってる。
ただの男の俺には縁のない夢だったけど、でも、ずっと心のどこかに残ってた。
残滓は、しばし沈黙した。
まるで、何かを探るように、俺の“願い”を見つめていた。
「……変身ヒロイン。それは、私には理解しきれない願いです」
「まぁ、だろうな……」
「けれど、あなたの魂は——その夢に、深く共鳴している。
意味が分からずとも、私は確かに感じました。
それは、“祈り”に似ている。誰かになろうとする、誰かを救おうとする、純粋な衝動」
(……そんなもんなのか?)
「あなたのような魂を、私はずっと探していました。
どうか、この世界を……あなたの祈りで救ってください」
俺はうなずき、肯定の返事をした。まだ完全には要領を得ないが、変身ヒロインになれるチャンスをみすみす逃すのは勿体無いからな。
「準備は整いました。あなたの“憧れ”は、私の記憶と神域を通して——“魔法”として形にしましょう」
身体が光に包まれていく。
「あなたなら、きっと大丈夫です。あなたを、“聖女”を、私は信じています」
その言葉を最後に、彼女の姿は光に溶けて消えた。
次の瞬間、地響きのような音と共に——俺の転生が、正式に始まった。
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