第4話 覚醒—ソウグウ
『幽霊屋敷』の中で見つけたノートパソコンにメッセージを送って来た謎の存在『タケ』。『タケ』のセクハラ攻撃に三人は苦戦しつつも、カイトはネカマアカウント「aya」を操り『タケ』を懐柔、屋敷の深淵に続く扉を開けさせることに成功する。
――――——
三人は新たに先ほど開いた奥へと続く扉の前に立っていた。扉の先は漆黒の闇に包まれており、殆どどうなっているのかは確認て出来ない。安易に足を踏み入れてしまっていいのだろうか?扉が開いたときに聞こえた不気味な声は聞こえなくなり、まるで息を殺してこちらを伺っているかのように静かだ。
「これ、光源に出来ないかな?」
ミサが持っていたのはIpadだった。探索中にこの屋敷の中で拾ったらしいが電源を付けてもロック画面が光るだけだったが、これで先の部屋を照らして様子を伺う事くらいは出来るかもしれない。
カイトはIpadの電源を入れてロック画面を点灯させると扉の先へ滑り込ませた。Ipadの画面から出た光が扉の先をうっすら照らすと、そこは細長い廊下のようになっており、さらに先へと続いているようだった。三人は意を決して扉を抜けて廊下へ進んでいった。
廊下の両端には無数のドアが設置されていた。ドアからはネームプレートがかかっており、『みか』『かりん』『れいか』『ゆうに』など女性の名前が記されていた。
「なんだこれ?」
カイトは近くのドアに手を伸ばしたがネロが鋭くそれを止める。
「よく見るんだ!このドアノブ…何か妙だ…」
ドアノブをよく見ると得体の知れない液体がベトベトに付着し異常な臭気が漂っていた。
「うおっ!なんだこれ気持ち悪い!」
カイトは急いで飛び退いてドアから離れる。するとドアが悔しそうにガタガタ震えだしたかと思うと、それに呼応するように他のドアも「ガタガタ、ヘコヘコ」と音を発し始めた。三人は恐ろしくなって廊下を一気に突っ切ろうと走り抜ける。廊下の先には襖のような扉があったがカイトは躊躇わず開き、ネロとミサと共にその先へ転がり込んだ。
廊下を突っ切って、一気に次の部屋へ飛び込んだカイト達がたどり着いた場所は、先ほど居た場所とよく似た作りの和室だった。さっきの廊下の襖はここの押し入れへと続いていたようだ。和室の中央にはやはりあの黒いテーブル、そして背を向けて座る謎の小男がテーブルへ向っていた。
「ピチャ…クチャ……ン゙ン゙ッ」
襖から出てきた三人はその男を様子を背後からうかがいながら絶句する。
子供にも見えるし老人ようにも見えるその小男はテーブルの上の何かを夢中で捕食している。
「これは混ぜたほうがいいんかな?」
こちらに気付く様子がない小男は手に持っている容器をスプーンでかき混ぜ始める。
「ティラミスを…混ぜている…」
顔面を蒼白にしながらネロが小声で呟く。ミサは手で口元を抑えて目を逸らしている。
「こいつがあの五文字なのか?」
カイトはネロに尋ねると、ネロとミサは口元に人差し指を立てて静かにするよう合図を送った。
「わからない…だがアレはまだこっちに気が付いていないらしい」
ネロは小さな声で答える。
「気持ち悪い!さっき来た方向へ戻ろ!?」
ミサはパニックになりながら先ほど通った襖の方へ振り返るが、襖の中は押し入れになっており、圧縮布団がしまわれていた。先ほど通って来た廊下はどこにもない。
顔を見合わせる三人に背を向けていた男がゆっくりとこちらを振り返り<後方確認>していた。
三人は初めてこの男の顔を見た。坊主頭にニンニクのような鼻からズレ下がったサングラス、そこから細い目が確認できる。無精ひげに囲まれたおちょぼ口はすぼめられてまるで嘴のように尖っている。肌はガサガサで着ている服はサイズがあっておらず年季も入っているのかダボダボでヨレヨレだった。
「なんだそのきっ……かっ……」
男の顔を見てカイトは言葉に詰まった。普段から思っことを無遠慮に口に出してしまうことの多いカイトにとってそれは珍しい事だった。
「…」
ミサは言葉を失っている。それほどまでに目の前にいるアレが想像を超えた存在だった。
「あなたが<五文字様>なのか?」
ネロはソレに恐る恐る問いかけた。
三人の方を向いたソレは石像のように固まっている。細い目が一体どこを見ているのか何を考えているのかカイトたちにはわからない。それが不気味だった。
「おい、このオッサン何も喋ってくれないぞ?」
しびれを切らしたカイトがそう口を開くとそれを聞いたミサが即座に
「ちょっと!…ごめんなさい!ウチらちょっと迷子になっちゃって…」
とフォローを入れた。ソレはミサの声に反応したのか糸のように細い目を柿の種程度に見開きミサの全身をじろりとなめまわすように視線を這わせた。
「あなたはここから出る方法を知っていますか?」
ネロは慎重に質問をした。しかし、やはりソレは口をすぼめたまま何も答えない。ネロの方に視線さえよこさずその視線はミサへと注がれている。
「小……小……」
ミサを見つめている地蔵のような男は急に声を発し始めた。
「しょう?…なんだ一体…」
カイトはソレから視線を外さずそう口に出した。ネロやミサも同じような事を考えているのだろう。何も答えないが固唾をのんでアレに注目している。見れば見るほど奇怪な目の前のソレが一体何なのか三人には分からなくなった。
そのヒト?ヒトと言っていいのか?確信が持てない。断定することをカイトはやめておいた。とにかくその謎の存在は「小……小……」と繰り返し呟いているようだった。
それは本当に唐突だった。急にアレの細い目がカッと大きく広がり血走った白目が露になる。そしてそのおちょぼ口からハッキリと
「小濡。」
と言葉を発した。意味は分からなかったが、それを聞いた途端三人の背筋を凍りくような感覚が走り目の前の<霊のアレ>は<ホンモノ>だと本能的に感じ取った。
「確信した!こいつは妖怪だ!」
ネロは柄にもなく大きな声でそうカイトたちに告げた。
「やべえ…!マジでやべえ…!お前ら逃げるぞ!」
カイトがそう言って弾けるように二人を見るとミサは青白い顔をして両膝を付きその場から動けなくなっていた。
「おいミサよ!なんでよ!動かなくなっちまったんだよ!」
「カイト、とりあえず落ち着け!」
ネロはミサを引き起こし、背中におぶるとランドセルを指さして
「お前はこれを運んでくれ!」
とカイトに告げた。
カイトは返事もせずに三人のランドセルを引っ掴むとネロと共に脱兎の如く駆けだした。背後からはアレがヨチヨチ歩きながら「小濡……小…———」という声とともに追いかけてくる。
(出口がどこにあるのかわからないがとにかくアレから逃げなくては!)
カイト達はただそれだけを考えながらこの『幽霊屋敷』をしゃにむにひた走るしかなかった。
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