★1.2の底辺勇者が『弱者の叡智』で評価システムを破壊する

@pentan55

第1話 評価システム

「おい、そこの★1! そんなところに突っ立ってないで、便所でも掃除してろよ!」


朝の冒険者ギルド。石造りの重厚な建物の中は、すでに多くの冒険者たちで賑わっていた。俺――アキラ・タナカは、★4.8の高ランク冒険者に肩を掴まれて、トイレの方向に押し飛ばされた。よろめきながら何とか体勢を立て直すと、周囲から嘲笑が漏れる。


「あ、ごめん。★1には仕事を選ぶ権利もないんだったな」


ブレイド・ハンターと呼ばれる彼――リック・ヴォルテールは、筋骨隆々とした体躯を誇示するかのように胸を張り、取り巻きの冒険者たちを見回しながら、わざとらしく大きな声で言った。彼の銀色に輝く鎧は、明らかに高価な魔法金属で作られており、その価値は俺の全財産の百倍は下らないだろう。


「ハハハ、面白いじゃないか。★1.2で冒険者を続けるなんて、よほどマゾなんだな」


取り巻きの一人、★3.9のマグナス・ダークが腹を抱えて笑う。彼の黒い革鎧には、討伐したモンスターの牙や爪がトロフィーのように飾られている。その笑い声は、ギルドの石造りの高い天井に響いて、嫌な残響を残した。


俺の頭上に浮かぶ光る数字――★1.2。この世界の絶対的な評価基準だ。誰もがこの数字に支配され、数字が全てを決める。仕事、住む場所、結婚相手、そして生きる価値まで。


俺は黙って立ち上がる。床に膝をついた時の痛みを堪えながら、ゆっくりと体を起こした。


前世で三十五年間、東京の大手商社でパワハラを受け続けた経験が、こんなところで役に立つとは思わなかった。上司の理不尽な叱責、同僚からの陰湿ないじめ、取引先からの無理難題――そんな日々を耐え抜いた記憶が、今の俺を支えている。


――田中、お前はダメだな。こんな簡単な仕事もできないのか?


――申し訳ありません、課長。すぐに修正します。


――修正? もういい、他の奴にやらせる。お前は書類整理でもしてろ。


あの頃の俺は、ただひたすら謝り続けていた。自分が悪くなくても、理不尽だと分かっていても、生活のために頭を下げ続けた。妻と幼い娘のために、歯を食いしばって耐えた。


そして最後は――


山手線のホームに立った時のことを思い出す。朝の通勤ラッシュ。押し寄せる人波。疲れ切った顔の群衆。そして、迫り来る電車のヘッドライト。


一瞬の衝動だった。もう、疲れた。その思いが体を動かした。


「すみません、通してください」


低い声で言うと、リックは舌打ちした。彼の期待は、俺がもっと屈辱的な反応を見せることだったのだろう。泣き叫ぶか、怒り狂うか、あるいは土下座でもするか。だが、俺はそのどれもしない。


「チッ、つまらん奴だな。もう少し反応してくれよ」


「流石★1、感情すら鈍いのか?」


マグナスが追い打ちをかける。彼の言葉に、周囲の冒険者たちがクスクスと笑い声を上げた。


彼らが去っていく中、俺は心の中で呟く。


――覚えていろ。いつか必ず、この屈辱を何倍にもして返してやる。


この世界に転生して一年と三ヶ月。俺は毎日、こんな扱いを受けている。


頭上に浮かぶ★1.2の評価は、この世界では「社会の底辺」を意味する烙印だった。街を歩けば子供たちが指差して笑い、商店では露骨に嫌な顔をされ、宿屋では最も条件の悪い部屋しか用意されない。


「おい、★1が通るぞ。子供たちを近づけるな」


「触ったら評価が下がるかもしれないからな」


通りすがりの主婦たちが、わざと聞こえるように囁き合う。彼女たちの頭上には★2.8や★3.1といった、一般市民としては標準的な数字が浮かんでいる。


この評価システムは、生まれた瞬間から人々を縛り付ける。赤ん坊でさえ★1.0からスタートし、成長と共に評価が上下する。学業成績、運動能力、社会貢献、人間関係――全てが数値化され、リアルタイムで反映される。


そして一度下がった評価を上げるのは、地獄のように困難だ。


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