第30話 愛の重い乙女たちの会議
「……俺のハーレム計画の、最初の協力者になってくれ!」
満面の笑みでそう告げたカズキと別れた彼女たちは別室で緊急会議をしていた。部屋の空気は、まるで絶対零度のように冷たく沈黙に包まれている。
カチャリ、と誰かがティーカップを置く音だけが、やけに大きく響く。
最初に沈黙を破ったのは、聖女セレスティアだった。その顔からは血の気が引き、美しい碧い瞳は信じられないものを見たかのように揺れている。
「……ハーレム候補を私たちに探してほしい、と……? 私たちの誰かをハーレムにするのではなく……?」
か細い声は、今にも消え入りそうだ。彼女は震える手で胸元を押さえ、悲痛な表情で俯いた。
「どうして……? カズキ様は、わたくしのこの醜い心も、いやらしい欲望も……全てを受け入れて、『魅力的だ』と、そうおっしゃってくださったのではなかったのですか……? なのに……なぜ、他の女性を求めるような、そんな酷いことをおっしゃるのですか……」
自分の全てを肯定してくれた唯一の男性が、自分以外の女を探してほしいと頼む。その事実は、彼女の心を容赦なく引き裂いていた。
「ふざけないでよっ!!」
ドンッ!!という音と共に高価なテーブルが悲鳴を上げた。怒りに燃える拳を叩きつけたのは、エルフの魔導士シルヴィアだ。その顔は屈辱と怒りで真っ赤に染まり、尖った耳がぴくぴくと震えている。
「なんなのよ、あいつ! 私のこと好きだって言ったじゃない! 婚約者だって認めてくれたじゃないの! 演技だって言ってたけど、父様の前でキスまでしようとしたくせに! 今更、他の女を探すですって!? どういう神経してんのよ、あの朴念仁!!」
ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった彼女は、今にも部屋を飛び出してカズキに詰め寄りそうな勢いだ。先日のデートで交わした甘いやり取り(一方的な)、父に認めさせた婚約の誓い(カズキ的には演技)に、イザベラとの騒動の後の告白(だと勝手に思っている)をされた直後なのだ。無理もないだろう。
「これは夢です……だって、カズキ様が私を捨てるはずありません……夢だから無理やり抱いてもらってもいいのでは?」
「あの腕輪だって! 『大事にする』って言ったくせに! 嘘つき! 最低! もう、魔法で無理やりさらってやるわ!」
現実逃避をするセレスティアと感情的になるシルヴィア。愛する男に裏切られた(と彼女たちが盛大に勘違いしている)乙女たちの悲しみと怒りが、部屋の空気を重く、よどませていく。その時だった。
「……お二人とも、お静かになさってください」
凛とした、しかしどこか氷のように冷たい声が、二人のヒステリーをぴしゃりと制した。声の主は、メイドのシノン。彼女だけは、いつもの無表情を崩さず、静かに紅茶を一口すすると、カップをソーサーに置いた。
「おそらく、これは……ご主人様による、私たちへの『試練』です」
「「試練……ですか(なの)?」」
セレスティアとシルヴィアが、シノンの突拍子もない言葉に、きょとんとして聞き返す。シノンはこくりと頷き、その怜悧な瞳で二人を交互に見つめた。
「ええ。考えてもみてください。ご主人様は、イザベラ様の一件で、ご自身を巡って私たちや外部の令嬢が争うことを、深く懸念されたのではないでしょうか? そして、いくら鈍感なカズキ様とは言え私たちの彼への想いが、少々……いえ、かなり『重い』ことも、薄々感じ取っていらっしゃるはずです」
シノンの言葉は、冷静な分析のようでいて、その実、とてつもなく都合の良い解釈へと向かっていく。
「だからこそ、あえて『花嫁探しを手伝え』と、私たちに無理難題を突きつけたのです。それによって、私たちの覚悟と、彼への気持ち……そして、本当に私たちが彼のパートナーとして相応しい器を持っているのかを、試しているのに違いありません。『俺一人じゃわからない』という言葉がその証拠です。つまり私たちがあきらめない心と逆境でも冷静になれるかを知りたがっているのでしょう」
シノンの驚くべき推理に、セレスティアの瞳に光が戻った。彼女は、シノンの言葉を自分にとって最高に甘美な真実へと変換する。
「な、なるほど……! 確かに神様はおっしゃっていました。『彼への恋心をセーブするんやない。全力で愛情表現したるんや。あんさんらが『重い』と思うくらいで、ちょうどええ』と……つまりこれはカズキ様なりの試練なのですね!! ああ、なんというお方……! 私たちの未熟な心を、そこまでお見通しだったなんて……!」
「なんかその神様のしゃべり方とってもうさんくさくないかしら?」
先ほどまでの泣きそうだった顔はどこへやら、セレスティアは恍惚とした表情で胸の前で手を組む。その頭の中では、カズキが自分たちの成長を促す、慈愛に満ちた試練の神に見えていた。
「ふん、そういうことなら話は早いわね!」
シルヴィアもまた、シノンの解釈に乗り、不敵な笑みを浮かべた。怒りはすっかり闘志へと変わっている。
「ふん、私たちの愛情をためそうだなんて調子に乗っちゃって 面白いじゃないの、その試練! 受けて立ってやるわ!」
プライドの高い彼女にとって、「試されている」という状況は、むしろ燃えるものだった。
三人の意見が、恐ろしい方向に一致したのを確認し、シノンは満足げに、しかし無表情のまま、とどめの一言を放った。
「その通りです。ですから、私たちは『カズキ様花嫁候補選定委員会』として、まず、彼に相応しい女性の条件を定めるのです。もちろん、その条件は……」
シノンの言葉に、セレスティアとシルヴィアが顔を見合わせ、黒く、美しい笑みを浮かべた。
「「「私たち以外、絶対にクリアできないような、超高難易度の条件にすればいいのです(いいのよね)!!」」」
こうして、愛が重すぎる乙女たちによる、未来の恋敵を全て排除するための、鉄壁の包囲網が形成された。
勘違いしたままの元勇者が夢見るハーレム計画は、開始と同時に、彼の愛する協力者たちによって、茨の道へと変えられてしまったことを、彼はまだ知らない。
★★★
感想かえせず申し訳ありません。もう少ししたら落ち着くので……
面白いなって思ったらフォローや星を下さると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます