第18話 ルシアは動揺する。

 あの男達の仲間かも知れない。そう思い、ルシアは勢いよく振り返った。


 そこには息を切らしたラモンがいた。


 ルシアは驚き、目を見開く。


「——な、なんで、来たの——。」


 つかえながらそう言った一瞬、ルシアを眩暈が襲った。


 だがルシアはそれを気に留めずに言葉を紡ぐ。


「——だってラモンは、もう従者じゃ無いし、私のこと、助ける、必要無いし——へ。あれ。なんで、来たの?」


 ルシアは髪をくしゃりと握りながらラモンに問う。


 彼は膝に手をつきながら言った。


「なんでってなんでだよ。従者じゃないと助けちゃ駄目なのかよ。」


 また、ルシアの視界がぐらりと揺れた。脳裏に炎の赤色がちらつく。


「——いや別にそういう訳じゃない——と思うけどでも、もう私主人じゃない訳で、ただの——。だから、そこまでする必要ないから——。」


 今度は眩暈と同時にルシアの頭にズキンと痛みが走った。男達の叫び声が耳の奥で響いている。


 狙ってそうしているのか、ラモンはルシアの疑問には答えず、自身の質問を重ねる。


「ただの、なんだよ。必要ってなんだよ。言ってみろよ。なんで夜に一人で部屋に居たんだよ。せめてロビーかどっかに居れば——。」


 後半の言葉は責めているのか、心配しているのか、もうわからない。そしてルシアにはそれを気にかける余裕は無かった。


 先程まで断続的に起こっていた眩暈は、もう絶え間なく続いていて、視界の端が暗く染まり、足元が霞んでいく。

 頭の中で、頭痛と同時に男達の悲鳴が響く。鼻には肉を焼くような匂いが、まだ残っているような気がしていた。

 視界が赤黒く滲んで、全てが遠ざかっていく——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る