第17話 ある日の一幕

 俺も安住もすっかり慣れたが

 

 店長は店に変なものをしょっちゅう設置する。



「またわけのわからないものが……」



 店に着くと顔ハメパネルが置かれていた。


 けどこのパネルは穴の大きさがデカい気がする。


 穴の位置に合わせてスタンドも添えてある。



「これなんですかね?」


「さあ……」



 肝心のパネルの絵はというと、壁だ。


 石造りの壁が描かれているだけ。



「どうよそれ? さっそく撮影してみた?」



 店長がスッと現れて聞く。



「店長これは?」


「え、分からない? 壁尻だけど」


「あ、あー……」


「なるほど」



 俺と安住はやっと理解した。


 だから壁しか描かれてないのか。



「じゃあ早速。佐伯さんは出来栄えを見てください」


「え、えぇ……」



 安住は上半身を通してスタンドに腕を置くようにした。


 リアルで見る壁尻の状況は凄いあれだ、凄い。



「俺は叔父だから何も思わないが、どうなんだ?」


「どんな感じですか?」


「は? どうって言われても……」



 腰とお尻のラインが強調されてエロい。


 制服のスカートがスレスレなのが理性を揺さぶる。


 が、それを言うのはな……。



「エロいですか」


「っ……」


「沈黙は挿入一歩手前であると受け取りますよ」


「肯定と受け取れよ」


「ふっ、じゃあそうします」


「あぁ、そうしてくれ……?」



 ふふふっと笑みを浮べているのが後ろからでも想像に易い。


 察されるのも恥ずかしいけど言わされるよりマシか。



「好評ということで壁オ○ホも作るか」


「営業停止になるのでやめてください」




 ***




「いてぇ……」


「どうしました?」


「あぁ、ちょっと指を切っただけだ」



 休憩中に持参した本を読んでいたら、


 紙のふちで指を切ってしまった。



「一応、手洗い場で血は洗い流したけど……」


「あぁー新品の本だとたまにありますよね。ちょっと待っててください」



 そう言い自分のカバンを漁る安住。


 

「おっ、ありました」



 絆創膏を取り出すとこっちに寄ってきた。



「いや、自分で貼るよ」


「いいえ。おとなしく座ってください」


「う……分かった」



 さらに距離を詰めてきてこちらから折れた。


 献身的な安住はあまり見ないせいか……。


 意外な一面を見て、無意識にその横顔を注視していた。



「な、なんですか」


「普段とのギャップがあるっていうか。もちろん良い意味で」


「もう、そんなに褒めたら何か出ちゃいます」


「なにも出ないでくれそこは」


「あははっ、じゃあじっとしててくださいね」


「あぁ」


「ちょっとにゅるっとしますよー」


「ん? なにしてんだお前」


「あてっ!」



 口を開ける安住を手刀でギリギリ制止した。



「こういうのは指フ○ラがお決まりの展開じゃないですか」


「エロゲーではな……」


「でもよくつばをつけろって言いますし」


「でも傷口はもう洗ったから」


「そうですか、では私ができることはないですね」


「おい絆創膏!」


「冗談です。ちゃんと貼ってあげます」


「まったく……けが人を労わってくれ」


「ふふっ、了解です」



 今度は安住はしっかりと傷口に合うよう貼ってくれた。



「いやぁ、これに乳首に貼る以外の用途があるとは」


「だとしたらなにを思って常備してんだよ」



 少し強く巻かれすぎたのか指の感覚が変な感じがした。


 たまに見える安住の不器用さはある意味長所だと思う。

 

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