第50話 運命の相手

「そんな……」


 魔王とミリアの身体が1つになる。


「ミリアちゃ……」


「嘘……だって、あなたは魔族なのに……」


 ミリアは元の姿へと変わっていた。


「感動のところ悪いが、リアをなんとかする気はあるのか?」


 オリバーの言葉に、ミリアは慌てて祈る。下級魔族の姿であれば、聖女の力の妨害にはならない。


「彼女の魂はまだあるわ……聖物に閉じ込められたのね」


「聖物?」


「……彼女、魂まで聖女として祝福されたのよ。魂をすべて清めるために、聖物に入れられたのね」


「つまり……どこにいる?」


「あなたなら分かるでしょう?」


「…………これか」


 オリバーは、リアが首に飾る月の石に反応する。


「どうすれば出てくる?」


「啓示では全てが清められた時としか……」


「……待つつもりはない」


 聖光で身を包むと、月の石を握り真っ白な光が強く光る。その瞬間の後にはオリバーは姿を消していた。



「リア、どこにいる?」


 オリバーの声が聞こえる。頭がぼんやりとする世界で、唯一覚えていた存在だ。


「オリ……バー?」


「リア!!」


 抱きしめられた身体は温かく驚く。


「どうして? ここでは全てが平穏なはずなのに」


「迎えにきた、帰るぞ」


「……ダメよ。まだ帰ってはいけない気がするの……」


「……君は聖女じゃない」


「え?」


 胸が急にざわつきだす。知ってはいけないことだった気がするのだ。


「君は聖女である必要はないんだ。魔王も、今は倒す必要がない状態だ。だから、帰ろう」


「でも……私が綺麗になればあなたと堂々といれるのよ」


「君はずっと綺麗だ」


「私は……魔族だったのよ?」


 人間が忌むべき存在でしょう?


「今はリアだろう。リーグ国第一王女で、虫が嫌いで、宝石が好き……リアはそのままがいい」


「今のまま?」


「そうだ」


「まだ汚れたままよ?」


 魂には魔族の部分が残っている。このままでは完璧な聖女にはなれない、誰かがそういった気がするのだ。


「それなら、俺が一緒に汚れようか?」


「どうやって?」


「俺はリア以外心底どうでもいい!!」


「っ!?」


「聖剣なんてくそくらえだ。拳の方がよっぽど役にたつ!!」


「ちょっと!? 聖魔法を侮辱なんてしたら……」


「俺はリアを守るだけの目的で一緒に旅していた。使命なんてそもそもない!!」


「……私だって、魔族としての身体を元に戻す方法が知りたかっただけなのよ。今までのことだって、全て本当の正体がバレないようにする為ですもの」


「うん」


「ミリアと魂を入れ替える時、あなたを譲りたくなかったの。だから、いっそのこと全て消そうとしたのよ」


「うん」


「でも、なぜか上手くいかなかったの……ここにいれば、本物の聖女になってあなたに会える気がしたのよ」


「うん。ここから出て欲しいのは俺のわがままだ。君と元の世界へ戻りたい」


「……でも」


「俺が惚れたのは、弱い俺を冷たく突き放した君だ」


「っ!?」


「平気じゃないのに、意地を張るところ」


「……」


「宝石が欲しいと欲のあるところ」


「……」


「俺を置いて行こうしても、会うと目を輝かしてくれるところ全てが好きだ」


「〜〜っ」


「帰ろう」


 握られた手を振り払うことは出来なかった。今ここを出れば、与えられたチャンスを失う気がしたが迷いはもうなかった。


「えぇ、帰りましょう」


 引っ張られた方向がまぶしくなる。目を開けると、オリバーに抱きしめられていた。


「オリバー?」


「あぁ、おかえり」


 私の身体っ!! は、元のままだ。ミリアでもなく、完全な聖女にもなっていない。


「信じられませんわ、神の祝福から逃げて来ただなんて……」


「あなたは……変わらなそうね」


 ニーロンの手を借りて立つミリアと、いるはずの魔王がいない。


「魔王ならここにいますわよ?」


 ミリアがそう言うと、先ほど彼女がいた場所には魔王がいる。


「っ!?」


「ふふっ、どうやら魔王の魂は戻れなかったようですわ。肉体は残念ながら私が受け皿になってしまったようですけど……」


 そう言うと、またミリアの姿に戻った。


「おそらく、魔王はその中に取り残されたままかと……」


 月の石を見ると、確かに強い魔力を感じる。


「彼のように引っ張り出してくれる存在がいなければ

この先出てくるのも難しいですわよ」


「ひっぱり出す……」


「それと、神の祝福を拒絶したのですから、聖魔法も使えないようですわね。当然、魔族としての魔力も消えてしまってますわ」


「…………」


「なにを落ち込んでいますの?」


「え?」


「あなた、聖魔法や魔力以外もあるのでしょう?」











――――――――



 ケロベロスに乗り、1年ぶりとなるリーグ国へ帰還する。


「リア様っ!!??」


「ただいま、シシラ」


「急にお戻りなるなんて……て、手紙の1つでもくれていらしたら、きちんとお迎えを……」


「ごめんなさい。皆んなを驚かせたくて」


「うわぁーーーーん、驚きましたぁ!!」


 久しぶりの再会だと言うのに、シシラはあいかわらずだ。いや、以前よりも感情が不安定なようにも見える。1年ぶりだからかしら?


「なんの騒ぎですか? そんなに泣いてはお腹の子に……」


 コードがシシラと同じ部屋から出てくる。


「どうして、シシラの部屋から……それにお腹の子って……」


「聖女様!?、……お2人でお戻りになられたということは……」


「陛下にお戻りのご挨拶を……」


 オリバーがあらたまると、コードは質問には答えず飛ぶように走り去ってしまった。


「え……シシラ? あなた彼のこと?」


「ふふっ、リア様と同じでございますわ」


「〜〜っ!?」



 リア達の戻りの知らせを受けた城では、慌てて出迎えの用意がされる。


「さぁ、聖女様はこちらへ」


 そう言われ、とても……とても久しぶりに熱いお風呂を堪能した。着替え行われ、簡単な食事も用意される。


「うっ……」


「聖女様!? お口に合わなかったので!?」


「大丈夫、よ。久しぶりの調味料に、感動しただけよ」


「そんな、過酷な旅を……」


 シシラはまた目をうるませている。


「それより、陛下やお母様はお元気かしら?」


「それが……」


 口を閉ざすシシラに、すぐに会わせてもらうように頼む。





「お母様!!」


「ゴホッ、まぁ、リア……来てくれたのですか。ゴホゴホ……すぐに出迎えなくてごめんなさい……元気そうで良かったわ……今、用意をしていて……ゴホゴホ」


 咳が悪く、体調が以前よりも悪くなっているように見える。


「陛下にはご挨拶しましたか? ゴホッ、ちゃんと母より先に……」



「お母様、私、聖女ではありませんの」


 その場にいた全員がざわつく。


「リア、何を……」


「ですが、ここへ戻ってきたのは報告があるからですわ。1つは……」


 母の手を取り、魔力をこめる。魔族のものではない、隠れていた魔力だ。


 聖光とは違う、まぶしい光に思わず全員が目をつぶる。


「ご体調は……いかがですか?」


 母は驚いたように胸に手を当てる。


「これは……すごくいいわ。聖魔法で治してくれたのではないのですか?」


「はい、これは違いますわ。これは……」


 自分でも気づいていなかった。魔族の闇に隠れていたもう1つの私。


「今の光はっ!?」


 歓迎にと身支度を整えていたはずの王とオリバーがかけつける。オリバーの方はとっくに着替えており、すべてお見通しの顔をしている。


「パ……お父様、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。先に……お母様のお加減が悪いと知り、順番が入れ違いになったことお詫びしますわ」


「何を言うっ!! お前が戻りどれだけ嬉しいか……だが聖魔法とは少し違うような……」


「失礼ながら、陛下。彼女は魔王討伐の過程で聖魔法を失ったのです」


 オリバーが代わりに答える。まぁ、嘘ではないけどね。


「何? では今のは……」


「王族の能力ですわ、お父様」


「なんと!?」


「まぁ!?」


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